12月27日 オトナになった女子たちへ

朝日新聞2017年12月22日29面:手品、再開します。 「来年の手帖は買ったし、あとはカレンダーを買って、それから手品グッズも買っとかないと」今にもひとりごとを言い出しそうになりながら、わたしは年末の繁華街を歩いていた。なぜ手品グッズが必要なのか。お正月、実家で行われる演芸大会のためである。
演芸大会といっても、舞台(和ダンスの前)に立つのはわたしひとり。いつからはわすれたが、おせちを食べた後の恒例行事になっている。手品で、千円札を宙に浮かせてみせたこともあった。リクエストされたサイコロの目を、次々と出してみせたこともあった。家族、親戚、みな大喜びである。
折った新聞紙の中に注いだ水が消える、という手品のときも、すごい、すごいと拍手が起こった。しかし、「手品のタネ知っていた」一部から事後報告があった。知らないふりで驚いてくれていたのである。趣向を変え、「皿回し」をやったこともあった。これがなかなか難しいのである。年の瀬、特訓し、できるようになったときは、嬉しくて皿ばかり回していた。
今年のお正月は喪中だったので静かに過ごした。それでも、お雑煮くらいはと、母とふたり向き合って食べた。具は大根と人参。白みそ、丸餅。「お父さん、お雑煮、好きやったなぁ」 のど元まで出かかったけれど、言わないでおいた。言葉にしなくても、母も同じように思っているのが伝わってきたからである。
時間の流れとともに普段通りの暮らしに戻り、遊びにいったり、おいしいものを食べたり。父を思い出さない日も多くなったけれど、芯のところでは、ずっと悲しい。ずーっと悲しい。そういうものなのだなぁと思う。お正月の手品。わたしがUFOを浮かせ、自由自在に操ってみせた年は、父もたいそう不思議がっていた。「また手品、再開するで、お父さん」大股で冬空の下を進むわたしなのだった。(イラストレーター)

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