12月14日 政治と向き合う女性たち「1~5」

朝日新聞2019年12月9日夕刊7面:身近な課題 被災で気づく 2018年に大規模な地震と津波に襲われ、4千人超が犠牲になったインドネシアのスラウェシ島。同島のシギ県でも大きな被害が出た。今でも大勢の人たちが仮設住宅で暮らしている。9月に同地を訪れた。仮設住宅の近くでは、十数人の女性が地元の名産であるタマネギを利用したオニオンチップを作っていた。ジャカルタを拠点とする災害救援のNGO「アクシ・チュパット・タンガップ」が後押しする活動だ。タマネギを洗い、皮をむき、刻んで乾燥させる。単純作業だが、ていねいに心をこめて作っている様子が見て取れる。担当スタッフは「多くの人がトラウマを抱え、何もしないと災害を思い出してしまう。でも、ここで作業に取り組んでいれば収入が得られるだけでなく、みんなで励まし合い、寄り添い合って回復していくことができる」と話す。当たり前の暮らしが突然奪われてしまう自然災害。そこでの不自由な暮らしから立ち上がり、日常を取り戻していく過程は、災害関連のみならず多くの社会的な課題に向き合い、それらをみぢかに感じ取るきっかけにもなる。たとえそれがすぐに「政治」に直結しなくても、それまで考えてこなかった地域や社会の問題にいやが応でも向き合わざるをえない、そんな道のりを歩むことになるからだ。オニオンチップ作りの女性たちは、地域と係る最初の一歩を踏み出したともいえるだろう。そのかなたに「政治」がある。目を日本に転じれば、震災を契機に政治家になった女性がいる。「震災が政治活動の原点」と語るのは、衆議院議員を経て現在兵庫県の宝塚市長を務める中川智子(72)だ。専業主婦だった中川は、1995年の阪神大震災で被災。その後炊き出しや、家電の寄付を募って仮設住宅の人々に手渡す活動をした。被災者を財政的に支援する仕組みが必要だと痛感した中川は、当時の社民党関係者に声をかけられ96年の衆院選に出馬。被災者支援法やハンセン病問題など一貫して弱い立場の人の救済に取り組み、衆院議員を2期務めた後、09年から宝塚市長に転じた。「災害で突然暮らしが奪われることで女性の感覚が研ぎ澄まされ、いろいろな課題に敏感になり、やがては政治へと関心が向かう」中川は言う。元々生活は政治に直結しているのだが、ふだんはそのことを実感できない中川は震災でそれに気づいたのだ。3期目を迎えた中川は、財政の立て直しに加え、同性パートナー制度を実現し、最近では就職氷河期性大の正規職員での採用も行った。市民との対話集会や図書館の充実、給食の自校調理など、細かく目配りした政策も行ってきた。この国の政治の現場では依然として女性が少ない。衆議院で1割、参議院で2割程度だ。日本だけでなく世界的な課題でもある。どうしたら増えるのか。それを考えるために、「政治」を幅広くとらえ、現実に向き合おうとする各国の女性たちの姿を紹介したい。=敬称略(編集委員・秋山訓子)
朝日新聞2019年12月10日夕刊9面:仲間をつくり社会を変える 「どんなコーヒーが好き?」「コクのある感じですかね」店主がコーヒー豆を選び、ゆっくりと時間をかけていれてくれた。インドネシア・スラウェシ島のパル市にあるカフェ「クダイ・ファブラ」だ。同市は昨年大地震や津波に襲われた。今年9月に、被災地で活動するNGOを取材するために訪れたが、社会起業家や市民活動家が集まるカフェがあると聞いて行ってみたのだ。店主の妻が、女性の起業や自立を支援する活動を行っている。彼女に声をかけられ、ここに集う一人がサムシナル(41)だ。サムシナルは小学校の時に背骨に大けがを負い、背がそれ以上伸びなくなった。手先が器用で、仕立物で身を立てているサムシナルは「みんなと話すうちに私も仲間を作ろうと思った」と話す。ひきこもりがちな、身体に障害を持つ女性たち探してたずね歩き、誘った。「一緒に仕立ての仕事をしませんか。私もできたんだから、あなたにもできます」。5人の女性たちに裁縫を教え、今では彼女の名前の一部をとった店「シナール・テイラー」として完成品を納入できるまでになった。「みんな女性で、かつ障害を抱えていることで差別されてきました。でも、手に職をつけたために自信をつけることができた。もう誰かに頼らなくてもよく、社会に出て行こうと思えるようになった」。そう語るサムシナルの表情はとても生き生きとしていた。「私自身も、仲間を作っていろいろ話し合うことでさらに学びました」。サムシナルは、障害のある女性のための組織を作り、リーダーになった。「みんなと話すうちに、社会や政府に働きかけて、変えていくことが必要だと気づいたんです。それは私たちにしかできない」。自治体に、障害者の教育などについて政策提言もしている。「役所と交渉して、成果も上がっているんですよ」 女性や障害者など「マイノリティー」だからこそ、社会問題に気づくことができる。一人では何もできなくても、経済的に自立して仲間を作れば、改題解決に向けて一歩踏み出す自信を得られる。その中から政策を変えようと試み、やがては自ら政治家になろうという人も出てくるかもしれない。やはりカフェの常連の一人、ムハンマド・イクサン(32)は、女性のための人件問題に取り組むNPOのスタッフで、同性愛者だ。インドネシアはイスラム教信徒が大多数で、同性愛者に厳しい視線が投げかけられることも多い。同性愛行為をむち打ち刑の対象にしている地域もある。「ここでみんなと話して、行動を続けていこという勇気をもらっている」とイクサン。草の根の市民活動を続け、いつか政治家になりたいという。「全ての差別をなくしたい。それは差別されてきた自分だからこそできることだと思います」たとえ一人では無理でも、「場」があれば仲間を作って前に進んでいける。それはすでに「政治」の一部だ。=敬称略(秋山訓子)
朝日新聞2019年12月11日夕刊9面:政界へ米は民間支援充実 次々に立って自己紹介する女性たち。「今度の地方選挙に初めて立候補すると決めています」とある女性が発言すると、歓声と拍手がわき起こる。米国オハイオ州クリーブランドの会議室での光景だ。会場はエネルギーに満ち、休憩時間は各自情報交換に忙しい。民主党系の組織「エミリーズリスト」が10月に開いた政界進出に関心を持つ女性のトレーニングセッションだ。20人近く集まった。社会に問題を感じ、解決するために立ち上がりたいと思ったらどうするか。政治家に立候補、といっても資金にノウハウ、人脈など多くの壁が立ちはだかる。米国ではそんな女性たちを支援する民間の活動が充実している。1960年代のウーマンリブをはじめとする女性運動や、NPOの歴史が無いことがその背景にはある。エミリーズリストはその代表格だ。85年に創設され、寄付を集めて選挙に出る女性たちに配分し、選挙活動のやり方なども教える。団体名は「早期の資金援助はイースト菌のように大きな成果をもたらす」(Early Money Is Like Yeast)の頭文字に由来する。トランプ政権になって以降、大統領の女性蔑視的な姿勢が目立つからか、女性たちの政治への関心は飛躍的に増しているという。2016年の上下院選挙に向け、15年から16年にかけて立候補に興味を持った女性からの同団体への問い合わせは920件だったが、同選挙以降は5万件を超えた。女性国会議員も増えている。昨年の中間選挙後、上院は25人、下院は102人と史上最高数だ。冒頭のセッションでは自己紹介のあと、立候補のためにどんな準備が必要かの講義があった。その後は演説の練習。自分の経験と政治を関連づけて話す訓練をした。ケリー・カウフマン(32)は、選挙に出るのが正しい選択かどうかを知りたかったのと、セッションを通じてリーダーシップのスキルや人脈を得たかったために参加した。診断もできるナース・プラクティショナー(特定看護師)として働いている。「心理学も専門なので、精神に病を抱える患者が多いのですが、目の前の患者に向き合ううちに、こういう人たちを生み出す社会や政治のほうに問題があるのではないかと思えてきたんです」プログラムは非常に役立ったとカウフマンは言う。「立候補には何が必要かわかったし、自分の話をする時どうやったら聴衆とつながりやすいのかも学べた。他の行動を起こそうとしている参加者と知り合えたのもとてもよかった」が、当面は立候補しないと決めたという。「自分には今そのための時間もエネルギーもないと分かったから。でも私の経験は政策作りに生かせると思ったし、会場で知り合った、立候補する女性の政策作りを助けることにしました」日本でも政治家になりたい女性を支援する組織は存在する。ただ、私塾的なものが多く、大規模で全国的な組織は少ない。日本も米国のような実践的な組織がもっと必要だと思う。=敬称略(秋山訓子)
朝日新聞2019年12月12日夕刊9面:性別の役割意識 見直したい 「これが私の選挙ポスターでした。男性か女性かわからないでしょう? 性別に関係なく、私は仕事をする人だと訴えたかったんです。実際、この人は男か女かという問い合わせが来ましたよ」 そう言って韓国大田市の大徳区長を務める朴貞炫(55)は、スマホの画面をこちらに向けた。たしかに、ショートカットの人物がスタートラインに立つようなポーズをしていて、性別がよくわらないかもしれない。8月に韓国で朴に会った。彼女が区長の大田市大徳区は人口は18万。産業団地もあるが、韓国で3番目に大きい湖を抱え、自然も残る地域だ。韓国は政治の世界に女性を増やすため、候補者の一定数を女性に割り当てるクォータ制を2000年に導入した。日本ではクォータ制は導入されておらず、政治の場でそのような機運もない。韓国の国会は一院制だが、女性議員の割合は1990年代後半には2%ほどに過ぎなかった。だが現在は約17%で、クォータ制は一定の効果をあげてはいる。地方議会も同制度をとっている。ただ、地方の首長となると女性は非常に少ない。200を超える基礎自治体の女性首長は5%に満たない。朴はその一人だ。朴は大田市で育った。もともと消費者運動や環境保護に関心があり、社会を変える活動をしたとNPOの事務局長をしていた。2010年に大田市議に立候補して初当選した。河川開発阻止に加え、社会福祉の仕事に携わる人の待遇改善や子どものためのリハビリ病院の建設などに取り組んだ。2期務め、毎年市民団体が選ぶ「優秀議員」に選ばれたという。18年に区長に立候補し、当選した。「市議として、市民活動時代にできなかった政策の立案や監視をすることができた。さらに区長として執行まで責任をもってやりたいと思ったんです」と立候補の理由を説明する。今は乳児期から老年期に至るまで、各年代におけるケア政策の総合的な見直しをしている。「これまでのケア政策は、女性が担うことを前提として作られていた。そこに女性は不満を感じています。男女関係なく担い手になることを想定して作り直したい」 朴は「誰かが政治に足を踏み入れようと決めた時、その人が男性だとキャリアや能力の店から評価が始まりますが、女性は外見から評価が始まることがある」といい、「だから私は、男女どちらかよくわからないポスターを作ったんです」と話す。「私自身は女性だからといって政治家として不利益を感じたことはありません。とはいえ、ケア政策のように、社会の構造として、女性の昔ながらの性別役割分担が残っているものがあり、それを見直していきたい」たしかに、日本でも女性は男性に比べ、能力よりも外見で評価されがちかもしれない。また性別役割分担意識も根強く残っている。これらの偏見をなくすためにも、女性政治家の数を増やすことは必要だ。=敬称略(秋山訓子)
朝日新聞2019年12月13日夕刊11面:政治家キャリアの一部に 「全米一住みたい街」ランキングの常連で知られる米国オレゴン州のポートランド。中心地区から車で20分ほど行くと、中国語やベトナム語の看板が増える。ジェイド地区だ。「中心部にもチャイナタウンはあるけれど、地価が高くなって、移民の人たちは住めないんです」。同地区でアジア太平洋の移民支援をするNPO「Asian Pacific American Network of Oregon」の事務局長チ・ウェン(37)はそう語る。APANOは、移民向けの安価な賃貸住宅の提供や政策提言などを行っている。ウェンはもともとベトナム難民。1990年にポートアイランドに来た。地元の大学を卒業後、マーケティングの会社を経て自動車清掃会社を起業していたが、「世の中は課題でいっぱい。人生は短い。社会を変えるには政治が早道」と政治の世界に飛び込んだ。2015年、当時住んでいた同州キングシティー市の市議に。「それまで市議は年配の男性ばかりだったけれど、私の後には若い人やアジア系の人が出るようになった。それだけに私が市議になった意味があった」。予算を移民や女性などマイノリティーに振り向けることなどに取り組んだ。市議在任中、同性パートナーとの間に精子提供により長男を出産。市議会で長男を連れて行き、議場で受乳したこともある。「同僚市議はみんなすごい保守の年配の男性だったけど、だからこそ家族は大事と支援してくれた」。パートナーの転職に伴い転居しなければならず、市議は2年で辞任。今はNPOの仕事をしているが、いつか政治に戻りたいという。日本だと、一度落選するとその後のキャリアの築き方が非常に難しいといわれる。ただでさえ仕事をしながら妊娠・出産する場合もあり、壁の多い女性はなおさらだろう。だが、海外では政治の世界を自由に行き来しようとしているウェンのように、キャリアに政治家を位置づけて人生を考えられる国もある。徳島県三好市に住む徳島県議、高井美穂(48)は、03年から衆院議員を3期務めた。12年の総選挙で落選後に国政から引退し、15年の県議会選挙に出て2期目。「私は国政よりも、もっと地域に密着して考える政治家のほうが向いていると思ったんです。地方自治は、今目の前にいる患者さんと治すような手応えがある。それが好きなんです」 地元の人々とこまめに意見交換し、医師不足や過疎対策、学校を核としたまちづくり、年老いても住み慣れた地域に暮らし続けるにはどうしたらいいか、などきめ細かく取り組んでいる。「今ここにある課題の解決をすぐに探れて、やりがいがあります」「今はとても充実している」という高いの話を聞いていて、日本でも、もっと女性が自由に政治の道を探れるようになってほしいと思う。女性だからこそ気づけること、できることもたくさんあるからだ。=敬称略(おわり)(秋山訓子)

 

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