11月9日 運動できなくても仲間と

朝日新聞2019年11月4日19面:いま子どもたちは eスポーツで輝く「1」 10月、茨城県で開かれた第74回国民体育大会。ホールに設けられた薄暗いステージを、スポットライトが照らす。大音量の生実況をバックに、選手たちはコントローラーを両手で握り、高速で指を動かし続ける。それに合わせ、大画面に映し出されたサッカーゲームの選手が躍動する。好プレーに、観客から拍手が湧いた。テレビゲームで対戦する「eスポーツ」の全国大会が、今年初めて国体の文化プログラムとして実施された。競技種目はパズル、サッカー、レーシングの三つ。サッカーゲーム「ウイニングイレブン」の少年の部には、京都府代表として京都廣学館高校(京都府精華町)の3選手が出場した。本戦では、北海道、島根、神奈川の代表と対戦。1勝1敗1分けで予選リーグ敗退となったが、神奈川戦で1点を決めた1年生の港雅也さん(15)は笑顔で「会場も大きくて生実況もあった。やってやるて気合が入りました」。試合後、選手たちは「次もがんばってね」と、相手チームを互いに健闘をたたえ合った。同校の国体出場のきっかけになったのは、今年1月にできたeスポーツ部だ。中西紳也校長が「多様なフィールドに、生徒の活躍の場を作りたい」と創部を決めた。今の部員は1年生4人。平日に週3回、校内のパソコン室で2時間ほど「ストリートファイター」など格闘ゲームの練習に励む。放課後、4人は部室に集まると、技の出し方を反復して習得し、部員同士の対戦で腕を磨く。国際的な試合で活躍するためには英語も必要と、週1回は英検受験に向けた宿題に取り組む。格闘ゲームでは、連続して技をきめる「コンポ」の出来が勝敗を左右する。相手の隙を見極め、正確なタイミングでボタンを押す必要がある。「御暗示動作を繰り返し、体が自然と反応するようになるのが理想です」と顧問の高野洋輔教諭(31)。集中するあまり、部員たちから声が上がることは少ない。「カチャカチャ」というボタンの音だけが室内に響く。部員たちは、パズルゲームで国体をめざしたが、府予選で敗退。一方、サッカーゲーム「ウイニングイレブン」は、普段からこのゲームに熱中している生徒が多い本物のサッカー部かた選手を選び、1.2年生3人が府予選を突破。全国大会へ進んだ。eスポーツ部は「体格も運動神経も、生まれつきのものに関わらず活躍できる」という言葉を、理念に掲げる。部長の今村翔太さん(15)も、この理念に共感してきた。生まれつき心臓に疾患を抱え、激しい運動ができない。3歳になるまでに、3度の手術を受けた。今も年に数回、検査のために通院する。昨秋、受験を前に同校のオープンキャンパスを訪れ、eスポーツ部が新設されることを知った。同級生が部活動に入る姿を見て「何か部活動に入ろう」と思った矢先、クラス担当になった高野教諭からeスポーツ部に勧誘された。「eスポーツならできるかも」。すぐに入部を決意した。母親の三千子さんは、幼い頃から入退院を繰り返す今村さんの、学校の生活を心配してきた。「同年代と話すことが少し苦手なのかもしれない。友達とどこかへ出かけることも少なかった」。今、高校でeスポーツ部に打ち込む姿を見守りつつ、「部活動を通していろんな人と接し、自分の世界を広げてほしい」と応援する。入部後には、高野教諭の勧めで、部長を引き受けた。高野教諭は「何事も挑戦しようとする子。部長としての仕事を通して成長してくれたら」と、いろいろな仕事を任せる。今村さんは、顧問からの連絡事項のほか、出場した大会の記録、会場への交通手段まで、SNSを通じて自主的に部員に知らせる。「少しでもみんなを手助けしたい」という、部長としての自覚が芽生えた。部員の多くが、クラスでは物静かなタイプだ。けれど、みな部活動の間は「自分の得意な分野で話ができる」と笑顔を見せることが多い。4人が入部して半年余り。まだ、部活動の間や帰り道に、格闘ゲームのキャラクター談議をする程度だ。「もっと仲良くなって、休みの日に一緒に遊びに行くような関係になりたい」。今村さんは、そんなeスポーツ部の姿を思い描く。来春、入部1周年を記念して部員みんなで遊びに出かける計画を、こっそり練っている。(渡辺元史)
!議論を巻き起こしながら、急速に広まるeスポーツ。その世界に飛び込み、少しずつ人生を変えた、高校生らの姿を追います。
急成長の市場 依存症懸念も eスポーツは国内でも、急速に競技人口が拡大している。ゲーム会社などでつくる「日本eスポーツ連合」によると、eスポーツという言葉が使われ始めたのは2000年ごろ。10年代に入り、国内でも大規模な大会が開かれるようになった。昨年からは全国高校野球選手権も始まった。ゲーム雑誌「ファミ通」を発行するKADOKAWA Game Linkage の18年の推計で、国内のeスポーツ市場は17年に約4億円だったが、18年に48億円に急成長。22年には99億円まで拡大すると予想する。一方、世界保健機構(WHO)は今年5月、ゲームのやり過ぎで日常生活に支障をきたす「ゲーム依存症」を疾患と認定。「eスポーツの普及が、依存を助長するのでは」という懸念も根強い。神戸大大学院の秋元忍准教授(スポーツ史)は「既存のスポーツで壁とされてきた障害の有無や性別、年齢に関係なく参加できる良い面もある」と評価する一方、「やり過ぎがよくないのは既存のスポーツも同じ。ゲームだから特別ではなく、同様に子どもを守るガイドラインの作成が急務だ」と指摘する。

 

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