11月8日 見えないルーラー「9」 グーグルの野心 住民反発

朝日新聞2019年11月3日4面:つながる街 個人情報どうなる 膨大なデータの源泉として「街」に注目が集まってきた。問題になるのが、街で得られるデータの扱いだ。企業が自由に使っていいのか? 自治体が管理するのか? 論争が起きたカナダ・トロント市を、日本は「対岸の火事」として見れるのだろうか。(宮地ゆう=トロント、大津智義) 周囲の町並みからはやや浮き立つように、白を基調とした真新しい住宅が規則正しく並ぶ。三角屋根に取り付けられた太陽光パネルが、照りつける日差しを反射する。パナソニックが中心になって神奈川県藤沢市にあった同市工場跡地につくりあげている「Fuisawa サスティナブル・スマートタウン(SST)」だ。東京ドーム4個分の広さの土地では5年前から入居が始まり、約560世帯1800人以上が暮らしている。分譲価格は周辺よりも2割以上高いという。そのブランドを支えているが、先端技術を生かした「暮らしやすさ」だ。公園の防犯カメラの映像はリアルタイムで自宅テレビとつながっていて、子どもたちを見守れる。各戸の電気の使い方は、どの部屋でどんな機器をどれくらい使ったのかまで分析。届くリポートを省エネに活用できる。そのようにして得られるさまざまな個人データは、住民の同意を得た上でSSTの運営会社に集まる。企業からみれば、新商品やサービスを開発する「宝の山」だ。電気のデータなら、住民が家にいるかいなかいかがたちどころに分かるため、見守りサービスにつなげることも考えられる。しかし、運営会社のトップ、荒川剛さんはこう強調する。「テクノロジーありきでは理解は得られない。実際に藤沢では、住民の利益にならないものは実現せずに、はじかえてきた」新しいサービスを提供するときは、パナソニックのほかヤマト運輸や東京ガス、綜合警備保障(ALSOK)など18の民間団体に藤沢市や慶応大SFC研究所も加わったSSTの協議会で検討し、試されるという。「例えば、許可が得られた住民の情報を配送サービス会社と共有し、効率的な配達に役立ててもらうことも考えられる」などと荒川さんは思いを巡らす。企業主導でゼロから街を起こし、運営まで手がける「藤沢モデル」。1年ほど前、米グーグルの関係者が荒川さんらを訪れた。巨大IT企業がなぜ、街づくりに関心を持つのか。 カナダ・トロント市の湖畔エリアに「スマートシティー」をつくる計画を進める「サイドウォーク・ラブス(AWL)」。グーグルを傘下に持つアルファベットの子会社だ。計画では、例えば道路や信号機などにセンサーを設置し、道を行き交う人や自転車、車の動きなどすべてをデータ化する。街の中の道路を歩き、店舗に人が入れば、それまでの動きがすべて蓄積される。SWLはこうした「年の物理的な環境」から得られるデータを活用しようとしている。これに、住民などから「待った」がかかった。「データを取られたくなければ、この場所に近づかないほかない」10月初旬に開かれた市民集会では、不安や批判が相次いだ。SWLは個人情報については「明確な同意なく、第三社に売ったり広告に使ったりしない」と明言。一方で都市空間から得られるデータは、個人情報を管理する自治体とは別の組織で管理し「匿名化した上で誰もが使えるようにする」としていた。その後、別組織でのデータ管理は「自治体の制御が利かなくなる」と批判を招いたため10月末に撤回したが、懸念の声は消えない。「データが匿名化されても、複数のデータを組み合わせることで、行動や病気などが予測できたり、人が分類され、不公平な扱いや差別を生んだりする可能性は十分ある」。個人データの問題に詳しい米数学者のキャッシー・オニールさんは指摘する。地元紙によると、SWLは、当初トロントでの計画に計13億カナダ㌦(約1080億円)の資金を投じる考えも示していたという。「われわれの目標はトロントではなく、世界中にスマートシティーを建設することだ」。SWLで運輸部門を担当するアンドリュー・ミラーさんは野心を隠そうとしない。どういった都市を狙うのか、ミラーさんはいくつかの条件を挙げた。「土地開発の余地がある港湾都市、テクノロジーの活用に熱心な自治体、IT人材が豊富にいる街。多くの自治体から一緒に組みたいと話が来ている」 税収が限られる中、交通渋滞や住宅問題といった課題に直面するのは世界の自治体共通の悩みだ。なかでもトロント市は、人口知能(AI)やITの街として発展したこともあり、人口が急増。地価は高騰し、住宅不足も深刻化している。グーグルなどの巨大IT企業が、巨額の資金とともに解決策を持ってきてくれるのを拒絶するのは、難しい選択だ。トロント市で都市計画を担うジョージー・シオリ副支配人は「過密化する人口に対応する住環境や交通システムをそろえるのが急務で、民間企業の力は欠かせない。これは世界中の大都市に共通する課題だ」と話す。 日本の構想 的が絞れず 税収難に悩む日本にとっても、スマートシティーは「打ち出の小づち」になるのだろうか。政府は昨年「スーパーシティー構想」を公表した。国家戦略特区制度を使って自動走行や遠隔医療、エネルギーの最適化、キャッシュレスなどの最先端技術を集め、都市問題の解決を図る。自治体が持つデータ、さらには住民の個人データまでも横断的に収集・整理し、データを連携させて新たな住民サービスを生み出す、とした。ところが、今年の通常国会に提出された国家戦略特区法の改正案は廃案に。開会中の臨時国会への提出も見送られた。内閣府の村上敬亮審議官は「データを分野横断的に使おうという手法だけが先行している」と打ち明けた上で、さらにこう認める。「地域のどういった課題を解決したいのかが重要なのだが、そこがまだ不明確だ」さらにスマートシティーの推進には、参加する企業や団体が多くなるだけに、個人データの流通をどう適切に管理していくのかを詰める作業が不可欠になる。あらゆるものが「つながる」街、スマートシティーは革新的なサービスを生む可能性がある半面、なし崩し的な情報収集やそれらが知らぬ間に共有される恐れとも背中合わせといえる。個人データは、匿名化などによって広く流通させるのか、あくまで個人の同意を必要とするかの「大きな分かれ道」が訪れるーーこう予測するKDDI総合研究所の小林亜令さんは言い切る。「私は個人がコントロールできる状態が望ましいと思っています」

 

 

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