11月5日 補聴器リハビリで正しく使用

朝日新聞2017年11月1日29面:年を重ねると聴力が衰え、聞こえにくくなる。耳から入る音が減り、脳への刺激が少なくなれば、認知機能が低下するリスクも高まる。補聴器を正しく使う必要があり、リハビリとして取り組む医療機関も出てきた。聞き取りやすいように話しかけるなど、周囲の理解も求められる。
 音に脳を慣らす訓練 「だいぶ集中力が戻ってきました」10月中旬。川崎市の帝京大医学部付属溝口病院。聴覚利リハビリを受けた女性(75)は笑顔をみせた。音が十分に聞こえないため、以前は聞き流すことが習慣になっていたテレビの音も、今は意識して聞き取って理解しようとしているという。
音は耳から入り、音の刺激が脳に伝わることで、聞こえる状態になる。聞こえ関する細胞の数が加齢などのために減り、聞き取りにくくなるのが難聴のタイプの一つ。難聴の人の脳は音が伝わりにくい状態に慣れているため、補聴器を使い始め、大きな音が突然耳に入ってくると、不快を感じる。
女性が受ける聴覚リハビリは、補聴器の音に脳を慣らしながら、聞き取る能力を鍛えていく。いわば「脳のリハビリ」で、全国的にも珍しい取り組みだ。言語聴覚士の三瀬和代さんが文章を読み、補聴器をつけた患者が後を追って音読する。その隣で、認定補聴器技能者の西尾美保さんが音量を調整していく。
リハビリは週1回を3ヵ月間。聴覚士は最初はゆっくり滑舌よく読むが、回数を重ねるにつれて速く読んだり、雑踏の音などを同時に流したりして、レベルを上げていく。この日、長女(57)に付き添われて初めて受診した市内の女性(80)は、これからリハビリを始めるという。「この1~2年で母の耳が遠くなり、会話がかみ合わなかった」と長女。観劇や音楽会と外出好きだったのに、行動範囲は狭まっていた。女性は「また聞こえるようになり、バスガイドさんの説明を理解しながら旅行できるようになりたい」と話した。外来を担当する白馬伸洋主任教授(耳鼻咽喉科)は「聞こえが悪い状態を放置すれば脳への刺激が減り、認知機能の低下につながる。補聴器を適切に使い続けることの意味をわかってほしい」と語る。
常時装着で不快感減 聴力に不安を感じたらまず、耳鼻咽喉科を受診し、原因を特定することが大切だ。中耳炎など治療できる病気が原因のこともある。ただし高齢者の場合、加齢に伴う難聴であることがほとんどで根本的な治療は難しい。重度の難聴と診断されれば人工内耳の手術を受けられるが、多くの人は補聴器を使うことになる。日本補聴器工業会(東京)などによると、国内の65歳以上の難聴者は推計で約1500万人いる。
一方、海外の調査会社によると、日本では難聴の人のうち補聴器を使うのは約1割。欧米の3~4割に比べて低い。補聴器を使う人の満足度の比較でも欧米7~8割に対し日本は約4割にとどまる。帝京大の白馬さんは「難聴と診断だけして、その後は補聴器店に任せてしまう医師にも問題がある」と指摘する。補聴器は使い初めに不快感を抱くことが多く、そのままやめてしまう人もいる。その人に必要な音量が出ていない例も多いという。
済生会宇都宮病院では、当初は不快感が強くても常に補聴器を装着し、音に慣らしていくことで不快感が減り、改善することを医師が説明する。3か月間は言語聴覚士とともにフォローを続ける。耳鼻咽喉科の新田清一診療科長は「補聴器は、つければすぐ見えるようになる眼鏡とは違うことを理解してほしい」と言う。そのうえで「起きてから寝るまでの間、常に装着して音を聞くこと、3ヵ月ほど続けることで『難聴の脳』を十分に変化させることが重要」と話す。
補聴器を購入する場合、販売店を直接訪れるのではなく、専門の知識がある医師を受診したほうがよい。日本耳鼻咽喉科学会は約4千人の補聴器相談医師を認定している。サイト(http://www.jibika.or.jp/)に名簿が載っている。
大きすぎる声 聞き取りにくく 聴力の低下は少しずつ進むため、本人は自覚しにくい。周囲の家族らが気付いて、受診を促すことも大切だ。高齢者は特に高音域の音が聞き取りにくくなる。子音の聞き分けがしづらく、同じ母音も間違いやすい。例えば、「あまり」が「かなり」に聞こえるなどしてしまう。話しかける際はなるべくゆっくり、はっきりと話すとよい。大きすぎる声は、音が響いて不快に感じることがあり、かえって聞き取りにくいという。
うまくコミュニケーションがとれないことにいら立ち、周囲に怒りをぶつけてしまうこともある。慶成会老年学研究所(東京)の臨床心理士、宮本典子さんは「老いを受け入れるのは簡単なことではない。加齢に伴うさまざまな変化に直面する高齢者の心情を理解し、さりげなくサポートしていくとよいでしょう」と話す。加齢による変化なので予防するのは難しい。ただ、中高年で動脈硬化があると難聴を発症しやすくなるとの報告がある。内耳の血流が悪くなるためとも考えられ、生活習慣を見直すことは意味がありそうだ。(武田耕太)

 

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