11月20日 オトナになった女子たちへ 益田ミリ

朝日新聞2019年11月15日25面:ワニがいた公園 ああ言えばよかった、こう言ってやればよかった。自分の不甲斐なさに落ち込んで家に帰る途中、一生懸命遊んだ幼い日の思い出に助けられることがある。小学校から帰っておやつを食べ、「〇〇ちゃんたちと、〇〇公園で遊んでくる!」という情報を母に伝えて飛び出して行ったあの頃。母のセリフは決まっていた。「遠くに行ったらアカンで! 暗くなる前に帰ってきいや!」 いっつも同じやなぁ、と思ったのかどうかまでは覚えていないが、出かけてしまえばこっちのもんである。友達と遊ぶといっても色々だ。誰かのわがままのせいでつまらなくなる日もあれば、2チームに分かれる遊びで仲たがいする日も。そして、思いがけずやってくる「最高におもしろい日」。みんなの心がピタッとひとつになって、どんどんどんどん遊びがおもしろくなっていった奇跡の放課後。「すべり台の下にはワニの川やで!」 自然にそういう遊びになったことがあった。ワニは怖い。ワニは危険だ。とりあえず、すべり台の上にいれば安全なので避難した。とはいえ、みんなですべり台にいるだけでは遊びにならない。「ワニ、今、寝てるで」誰かの一言で、わたしたちは冒険の旅に出た。小枝で書いた地面のマル。「この中は安全地帯な」と決め、マルの島を跳びながら進んで行く。武器は「魔法の石」だが、むろん、さっきまでその辺りに転がっていたやつである。ワニを眠らせるのも、起こすのも私たち次第。「ワニ、起きたら逃げろ!」必死ですべり台の基地へともどって行った。全部、嘘だと知りつつ、一生懸命遊んでいたときの胸の高鳴り。いつの間にかあたりが薄暗くなっていることに気づき、走って家に帰った。大人になった今でも、そんな日々のことを思い出すと、ほんのりと温かくなる。うまくいかないこともある。山ほどある。でも、わたしの中にはあの楽しいワニの公園があり、いつでも遊びに行けるのだった。(イラストレーター)

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