11月2日 性別変更後 元に戻せない

朝日新聞2017年10月30日38面:思い込みで決断 後悔する人も 自分は性同一障害だと考えて戸籍上の性別を変えたが、やはり適合できず元に戻したくなったー。性別変更をする人が増えるにつれ、こんな悩みを抱える人が出てきた。変更後は現在の法律では想定されておらず、ハードルは高い。専門家からは「何らかの救済策が必要」との声も出てきている。
現行法では想定せず 神奈川県茅ケ崎市の40代元男性は2006年、戸籍上の性別を女性に変えた。それをいま、強く後悔している。家裁に再変更の申し立てを繰り返すが、「訴えを認める理由がない」と退けられ続けている。幼い頃から吃音に悩んでいた。疎外感を抱いていた00年ごろ、性同一性障害の人たちと交流する機会があった。「自分たちの存在を認めないのはおかしい」と訴える姿がとてもポジティブに映った。「自分も同じ(性同一性障害)だ」と考えるようになり、03年にタイで男性器切除の手術を受けた。
04年に一定の条件を満たせば性別変更が認められる特例法が施行されたため、心療内科を受診。十数回の診療を経て、複数の医師から性同一性障害の診断を受けた。横浜家裁に性別変更を申し立て、06年7月に変更が認められた。だが、すぐに後悔に襲われた。男性だった時には簡単に見つかった仕事が、女性になってからは断られ続け、性別を変えたためだと感じるようになった。弁護士に再度の性別変更を相談したが「今の制度では難しい」と言われたという。
現在は両親と離れて一人で暮らす。7月にようやくパン工場での仕事を見つけた。女性として就職したが、会社の理解を得て現在は男性として働く。「精神的に不安定な状態で申し立ててしまった。このまま生きるのは非常に苦痛で何とか元の性に戻りたい」と話す。
11年に戸籍上の性別変更した別の一人も、関西地方の家裁に今年6月、変更の取り消しを求める手続きを申し立てた。自身の判断でホルモン投与や性別適合手術を受け、戸籍の性別まで変えたが、現在は「生活の混乱の中で思い込み、突き進んでしまった」と悔やんでいるという。
代理人を務める南和行弁護士(大阪弁護士会)は「戸籍の性別によって生活が決まる場面は多い。本人が限界だと感じているのであれば、自己責任と切り捨てるのは酷だ。取り消しを予定していなかった法の整備を、司法が救済すべきだ」と話す。
「例外の道も必要」識者 最高裁の統計では、特例法で性別の変更が認められた人は16年までに6906人に上る。年々増え続け、ここ数年は毎年800人以上で推移する。一方で、同法には再変更を定めた規定がない。法務省の担当者は「法律はそもそも再変更を想定していない。日本では性別適合手術が性別変更の要件になっており、ためらいがある人はここでブレーキがかかる」と説明する。
ただ、同省によると、いったん認めた性別の変更について、13年7月に裁判所が取り消した例が1件あるという。「当事者が自身の性を誤信し、医師の診断も誤っていた」との理由だった。性同一性障害の診断経験が豊富な「はりまメンタルクリニック」(東京)の針間克己医師によると、ドイツなど海外では再変更の事例があるほか、国内でも再変更の希望者を5人程度、把握しているという。「自分の性への認識が揺らいだり、別の原因で生きづらさを感じた人が『自分は性同一性障害だ』と問題を刷り替えたりする事例がある」と語る。
針間医師はまた、性同一性障害の診断の難しさも背景にあると指摘する。「本人が強く主張すれば、その通り診断してしまうことはあり得る。先に性別適合手術を受けてきた場合にはなおさらだ」と言う。自らもトランスジェンダーで、性同一性障害に詳しい明治大学の三橋順子・非常勤講師(性文化史)は「特例法の施行直後に比べ、性別は容易に変更できる環境にある。今後、同じ悩みを抱える人は増えてくる」と予測する。「性別をたびたび変えることは望ましくないが、一方通行ではなく、例外的に後戻りできる道も必要なのではないか」と話す。(千葉雄高)

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