11月18日「10%」後の税財政「上」

朝日新聞2019年11月13日6面:消費増税とっさの「10年不要」 参院選直前に飛び出た発言は、今後の財政の行方を縛ろうとしている。「今後10年間ぐらいの間は、私はあげる必要はないと思っています」参院選を控えた7月3日、安倍晋三首相は与野党の党首が並ぶ討論会で自身の考えを述べた。2度の延期の末に10月からの10%への増税実施を決断した首相が、「10%の後」について語ったのは、初めてだった。発言を知ったある財務省関係者は、あぜんとした。「いったいどういう根拠で・・」。日本の財政状況は、けっして楽観できる状況にはないためだ。今後も社会保障費の急増が見込まれ、10%でも足りないとみる専門家は少なくない。官邸関係者は「10年」発言を「とっさに出た言葉」と解説する。発言があったのは、「未来永劫、10%からあげなくてよいと考える党首は挙手を」と記者が求め、複数の野党党首が手を上げたときだった。遮るように「未来永劫は、いくらなんでも無責任すぎる」と述べて「10年」に触れた。「首相は参院選で増税が争点になることを気にしていた。言わないとまずかった」 悲願の消費増税を目前に、財政規律を訴える立場の財務省も「受け答えの中で出た言葉」(幹部)として、受け流した。だが、首相はその後も国会などで「10年」を持論のように繰り返した。「とっさの発言」は定着し、政府や与党亜が財政健全化に取り組む機運はしぼんだ。9月に立ち上がった社会保障改革の検討会議は、消費税を含めた新たな財源の議論をしないと早々に決めた。首相は今月8日、景気を下支えするため、さらなる予算を投じる経済対策を3年ぶりに指示した。首相に近い世耕弘成・自民党参院幹事長はこの日の会見で強調した。「もうこの際、大胆にいってもいいのではなか。まだ日本には財政出動の余力がある」 政権奪還前には「Xデー」警戒 まるで違う空気が政界を覆っていたのは、たった8年前のことだ。「財政健全化が着実に進展しなければ、万が一の事態がそう遠くない日に現実になることも否定できない」。第2次安倍政権が発足する1年半前の2011年6月、野党だった自民党は一つの報告書を公表した。「X-dayプロジェクト報告書」。国債暴落で財政危機が起きる。「X-day」に備える報告書だ。積み上がった借金が原因で日本国債が信用を失い、政府の資金調達が困難に。金利が暴騰し、経済や国民生活が大打撃を受ける可能性を指摘した。報告書とは別に、「万が一の事態」が起きた時の緊急対応策をまとめ、財務省や日本銀行など関係部局で共有する念の入れようだった。当時は欧州債務危機が起き、東日本大震災からの復興財源の確保も議論されていた。財政への関心の高さは、当時の民主党政権と野党の自民、公明が税率5%から10%への消費増税を決めた12年の「3党合意」を後押しした。その年の暮れ、政権を奪回した安倍首相のもとで「アベノミクス」が始まり、風景が変わった。大きかったのが、13年春に打ち出された日本銀行の「異次元緩和」政策だ。今も続く政策は、長期金利をゼロ近くに抑え込むように国債を大量に購入する。財務省関係者は「超低金利が続くいま、金利暴騰の危機はなかなか現実味を持って受け止めてもらえない」と金利への「マヒ」に嘆息する。その状況で、12年度末に932兆円だった国と地方の借金は、政府が「戦後最長の景気回復」期とするこの間も増え続けた。18年度末に1100兆円を突破した。国内総生産(GDP)の約2倍だ。好況期には税収も増え、財政は好転しやすいはず。だがここ数年も、少子高齢化による社会保障費の伸びを受けて、毎年の政策的な経費を税収でまかなうことはできなかった。新しい借金をこれ以上増やさないための基礎的財政収支の黒字化の目標は、20年度から25年度に先延ばしされた。それでも、かつての危機意識はどこにも見られない。「X-day」の報告書と関連資料は、財務省内に眠ったままだ。記憶している職員は多くはなく、政策的な資料として願みられることはない。(木村和規) !社会保障費をまかない、財政を健全にするために実施された消費増税。だが、今も財政の先行き不安や税負担の公平性への不満は消えていない。税財政の課題を3回で点検する。
朝日新聞2019年11月15日7面:「株持ち優遇」再分配案を一蹴 財政の立て直しにまず持ち出される消費増税は、所得が低い人の負担も増やし、格差を温存してしまう。税の持つ「所得再分配」の機能を生かす道は、なかったのか。10月16日、参院予算員会。共産党の大門実紀史議員は「消費税の最大の問題点は、お金持ちより所得の少ない人の方が(実質的に)負担が重いとう『逆進性』だ。税金は苦しい人から取るのではなく、余裕のある人から取るのが当たり前ではないか」と切り込んだ。再分配に後ろ向きな政権の姿勢を象徴するとして、野党の矛先が向かう税がある。株式の配当や売却益にかかる「金融所得課税」だ。税率は世界的にも最低水準の20%。「金持ち優遇」といわれるゆえんだ。所得が増えると最大45%まで税率が上がる累進制度をとる所得税に対し、金融所得は他の給与所得などとは切り離して単独でかかる。株の売却益が1万円でも1億円でも税率は一律に20%。このため、所得1億円を境に富裕層ほど申告納税者の税負担率が下がるという「逆転現象」が起きている。麻生太郎財務相もその原因が金融所得にあると認める。「高所得者ほど、所得に占める株式等の譲渡益の割合というものが髙い。一番大きな理由はそれだと思う」 金融所得課税を強化したいと考えるのは、なにも野党だけではない。税財政をつかさどる当の財務省もだ。財務省の星野次彦主税局長(当時)は昨秋、首相官邸で、金融所得課税を段階的に25%に引き上げる案を菅義偉官房長官に示した。提案は、1年余で3度目だった。だが、菅氏は一蹴した。「株価への影響が出たらどうするんだ」。とどめを刺すように、こう加えた。「この件は、もう持ってくるな」。星野氏が4度目の提案に行くことはなかった。菅氏が引き上げを認めないのは、アベノミクスの成果を示す株高こそが、政権運営の生命線と考えているからだ。金融所得課税の強化で株価が落ちれば、政権に致命的な打撃になる。菅氏は周囲に語る。「株価が下がれば税収も減るのに、財務省は目先のことばかり、おれが官房長官の間は、金融所得課税の引き上げは絶対に認めない」それでも、昨冬決まった与党税制改正網は、金融所得課税について、将来の引き上げの議論への含みを残す文言となってはいた。しかし、今年9月に自民党の税制調査会長に就任した甘利明・元経済再生担当相は「(今年の)税調で結論が出るということではない」と早々に明言した。安倍晋三首相の盟友である甘利氏は「経済成長なくして財政再建なし」との立場。企業の不利につながる増税には冷たい。その姿勢は、いびつな「逆転現象」による落差を放置し、国民が税の公平性へ不信を強める危険とも背中合わせだ。(岡村夏樹)

 

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