10月9日てんでんこ 音楽の力【29】

朝日新聞2017年10月3日3面:福島の再生を担う子供らへのエール。「困難に立ち向かう力をつけて」 福島県相馬市は戦後から、児童の弦楽合奏が盛んだった。コンクールで全国一に輝いた学校もある。幼いころに楽器に触れた大人は数え切れない。南米生まれの音楽教育「エル・システマ」の演奏を指導する須藤亜佐子も地元小学校の楽器部出身だ。幼稚園のころ、隣の小学校から漏れるバイオリンの音色に憧れたのが、音楽人生の原点だった。
後藤賢二(75)は地方では珍しく弦楽器の修理技術を持つ。高校を卒業して60年近く地元の楽器店に勤める。店の創業者が、戦後、弦楽器を小学校に寄付した功労者だった。エル・システマは2012年5月に地元人脈を核に活動を始める。楽器は全国からの支援などでそろえた。須藤が非難指示区域の自宅から持ち出したバイオリンも加わる。修理や調整は後藤が担う。
半谷隆行(15)は東日本大震災の前から、須藤の教え子だ。原発事故で一時、福島市に避難した。戻ると須藤から誘われた。高校2年の村井秋絵(16)は震災時、小学生で楽器部員だった。自衛隊員の父は震災から半年近く家に戻らなかった。事故のあった原発にも派遣されたらしい。祖母や妹と待つ不安な日々で、父が戻った時は泣いた。
約30人で始まった週末教室の生徒は約70人になった。ドイツに渡り、この活動を勤めてくれたベルリン・フィルとも共演した。半谷と村井、須藤は今年8月、仙台市内のホールにいた。支援してくれている沖縄県のジュニアオーケストラなどと共演した。同じ活動を始めた岩手県大槌町の5人もいた。
コンサートマスターは半谷で、音合わせからあいさつまで奏者を率いた。決して社交的ではなかった性格が変わった、と思う。「好きなこと、やりたいことに向かって行ける人になりたい」。いま目指すのは音楽の道だ。
原発事故の影響で仮設住宅で学んできた村井は今春から、他校との統合で誕生した新しい高校の本校舎に通う。
子供たちを見て須藤たちは願う。「困難に立ち向かう力をつけて」。福島の再生を背負うだろう次世代へのエールだ。(山浦正敏)

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