10月9日 窓 異国の「孤島」届いたSOS

朝日新聞2019年10月6日34面:9月9日午後5時。東京・西麻布にある米中ニカラグア大使館の電話が鳴った。「助けてほしい」ロドリゴ・コルネオ大使(43)ら、大使館のスタッフたちは公用車に飛び乗った。高速道路は大渋滞。JRも不通になるなか、間引き運転していた京成線に乗り換えて成田空港についたのは、午後8時半だった。「何だ・これは」。ロビーは足の踏み場もないほどの人であふれかえっていた。床に寝そべる人たちもいる。そのなかに、母国の野球選手たちがいた。韓国でU18のワールドカップを戦い終えたばかりの選手やコーチ、27人。強い台風の影響で帰国便が欠航し、「陸の孤島」と化した空港で、すでに12時間近くをすごしていた。コンビニからは食べ物が消え、自動販売機は売り切れを示すランプで赤く染まっていた。周辺のホテルも満室だった。外務省やJICAに宿の確保や車の手配を求めたが、断れた。大使は途方に暮れた。午後9時前、群馬県南西部の山あいにある甘楽町。町の企画課長、田村昌徳さん(55)は自宅で、夕食後のコーヒーを味わっていた。「千葉は大変だな」。居間のテレビで、台風15号関連のニュースを見ていると突然、スマホが鳴った。「困ったことが起きました。力になってほしい」 ニカラグア大使の秘書からだった。驚いたが、すぐに事情を呑み込んだ。「できる限りのことはしたいと思います」 町は東京五輪のホストタウンに名乗りを上げ、田村さんも大使館のスタッフたちとこの春に2度、顔を合わせていた。田村さんは電話を切ると、スマホの電話帳から「甘楽ふるさと館」を呼び出した。町で唯一の宿泊施設だ。「27人、2泊。大丈夫ですか?」 次に鳴らしたのは、茂原荘一町長(72)の携帯電話。町長は、風呂から上がり床に就くところだった。「ふるさと館は空いているのかな」。町長からの問いかけに、田村さんは即答した。「仮予約してあります」町長が告げた。「困ったときは、助けるのが筋だ。バスを手配し、明朝、向かってくれ」大使館のSOSから20分後。田村さんは大使の秘書に受け入れ準備が整ったことを伝え、こう言った。「甘楽町を思い出していただき、ありがとうございます」電話口の向こうでは泣いていた。翌朝午前5時、町役場からマイクロバスとワゴン車が出発した。2台の車は往復400㌔を走り、午後3時半、選手たちをふるさと館に送り届けた。選手たちは2泊3日の滞在中、地元の野球少年たちと汗を流した。2日目の夜は町長らが催したお別れ会で、バーベキューを楽しんだ。司会役は田村さん。田村さんにうんがされ、選手団長があいさつに立った。「今回の出来事は、コルネル大使を通じて本国に伝えられ、全国民が感謝しています。一生、忘れません」大きな拍手が会場を包んだ。(平山亜理)

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