10月9日 人生の贈りもの 作家 浅田次郎【11】

朝日新聞2017年10月1日37面:どこで寝てても起こすな 『鉄道員』(ぽっぽや)の後は、とにかく書けるだけ書いて、限界になったら転がって寝て、また起きて。いつの間にかおにぎりが運ばれてあって、パンツの替えが置いてある。家の人間には、どこで寝てても起こすなと言っていました。廊下で倒れてても、書斎で寝てても、限界がきて寝ているだから。毛布をかけるのはいいけど、寝室に連れていくようなまねはするなと。で、自分で起きてまた続き書くんだよ。
ある時、書き上げて2階のリビングに行ったんだ。「飯食いたい」って。そしたら、おふくろがいる。あれ? いつの間に来たんだと思ったんだよ。実母は一人暮らしなんだけど、まあ正月は来るんだよ。おお、おふくろ久しぶりだなって言ったんだよ。何でいるのかっていったら、元日でやんの。大晦日も正月も知らなかったんだよ。
もう自分自身も完全に書いているものの世界に入っちゃってるんだな。現実がうその世界っていう感じで。40代後半は、そういう時だったね。『蒼穹の昴』が評判になって、これで終わっちゃいけないとすごく思った。それから楽をした時はないと思うよ。今書いたものも、前書いたものと遜色ないと思うし。
《着物と手書きの執筆スタイルは変わっていない》 割と形から入るからね。でもモデルがあるわけではないなあ。自然な形で着物を着るようになった。僕は資料をいっぱい散らかすから、机が駄目。360度、地図はここ、系図はこっちに広げってとなると、座敷じゃないと。あぐらをかいて仕事すると、ズボンよりも着物がずっと楽です。日頃から着ていることが多いね。でも人が来た時は着替える。宅急便が来て、着物で出るか? 宅急便の人は知ってるぞ、浅田次郎の家だって。
着物だったらあからさまでしょう。「ちょっと待って下さい」ってトレーニングウェア着て、寝ていたような顔で出る。今も着物だけどご近所の目がね。玄関から人がいないのを確かめて、よしって車に転がり込んで来ました。(聞き手 高津祐典)

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