10月19日 高校定時制通信制大会「1~4」

朝日新聞2019年10月15日夕刊9面:勝利だけじゃない笑顔のわけ 夏の高校スポーツといえば甲子園大会であり全国高校定時制通信体育大会だ。様々な背景を持つ生徒が集う定通制。それぞれの部活の様子を見ようと、大会を訪ね歩いた。ソフトテニスが行われた8月9日、千葉県白子町サニーテニスコート。各都道府県の選抜で争う女子団体の2回戦で、優勝候補の埼玉に敗れた神奈川に声をかけた。監督は横浜市立横浜総合高顧問の鈴木友也さん(30)。同校は午前、午後、夜間の授業を選べる定時制だ。「経済的な理由や家庭の事情からアルバイトをしていて、部活に打ち込める生徒は多くはない」と鈴木さんは話す。他方、小中学生校で不登校を経験した生徒も多い中、部活は「居場所の一つ」として生徒が通学するきっかけにもなるという。そして全国大会への出場は選手の自信につながる。同校3年生の東條千依さん(17)は昨年、競技を始めて半年で神奈川代表に入り、2年連続の出場。コンビニのあるアルバイトで家計を助ける。「マネージャーのつもりで入部して、練習をやってみたら楽しくて。初めて何か本気で頑張れる経験になって勉強にも本気で取り組めるようになりました」と、ソフトテニスを通じて自己肯定感を得られた体験を話してくれた。大会は今夏、66回目の軟式野球から21回目のバドミントンまで、全部で11競技が行われた。同月13日の神奈川県平塚市のひらつかサン・ライフアリーナ。バレーボール女子1回戦で、動きがおぼつかないチームがあった。顧問は、ボールが相手コートに返れば「いいよ!」と盛り上げている。4-25、6-25で敗れた。初出場の福井県立生高だ。昼間に授業がある定時制。メンバー7人中、初心者が3人。全員、スーパーや飲食店でアルバイトをする。4人が片親との生活を送り、3人は不登校の経験がある。昨年、生徒の要望を受けて創部され、体育主任教諭の真橋佑昌さん(36)が顧問に。今年、2校だけの福井県予選を勝ち上がった。「練習を楽しくやることで、遊びがてら来てもらい、部員を集めました。時間を守るのが苦手でも、集合時間は守る。試合に出るためにに互いの好き嫌いを超えてチームになる。そんなことが社会に出た時の糧になればと思います」3年生徒は今年入部した。「バレーが楽しみ。それまでは昼にようやく起きられたのが、今年は朝から学校に行けています」 翌14日の2回戦では、岐阜県立華陽フロンティア高が棄権した。同校の部員は6人ぎりぎり。朝練で負傷者が出たが、選手たちは「来年も同じメンバーで来よう」と励まし合った。定時制と通信制の併置高。2年生の一人は「バレー部で、生きるための人間関係がつくれる」と話す。小学時代にいじめられ、中学で不登校になったがここえは似た境遇の部員同士が、互いを理解するよう努めながら球を追うことができるという。勝利至上主義とは一味違った多様な存在意義が、定通制の部活にはあるのだ。(編集委員・中小路徹)
朝日新聞2019年10月16日夕刊5面:挫折を越えて輝ける場所へ 金髪の背番号10が活躍する。相手を振り回すドリブルに加えて、シュートを狙える位置を探る得点感覚。東京都立六本木高の4年、清水悠弥さん(19)だ。8月3日の静岡市の清水ナショナルトレーニングセンターでは、全国高校定時制通信制体育大会のサッカーが始まっていた。初出場の六本木高は1回戦を5-0で快勝。清水さんは3点を挙げた。小学4年でサッカーを始め、都内の強豪高に入ったが、半年たたずに退学。「ドリブルには自信があった。でも、勝負どころで仕掛けて点をとっても確実なプレーを求められ、指導者に怒られた」自分のスタイルにはこだわりがある。ある時、「点をとればいいじゃないですか」と強く反発した。「自分も未熟でした。それで練習に出づらくなって」。練習の一部が単位にからむことのあり、退学を決め、1年の秋から単位制の六本木高に編入した。当時、サッカー部員は11人だったが、練習を見に行くと2人しか練習をしていなかった。それでも入部し、2年時から主将に。「話すのが苦手な人や、ミスを優しく指摘しても落ち込む人が多い。人によって言葉のかけ方を変えました」。あまり練習に出てこない仲間には電話やLINEで「今日は練習があるよ」と声をかけた。「最初は『何でこんなことを?』とつらかったけど、初心に戻れた。前の学校でもレギュラーになれなかったかもしれない。でも、主張だけする人間から、チームを背負える人間に成長できたと思う。勉強も部活も充実しています」 全日制の高校スポーツに身を置きながら、何らかの理由で挫折を経験し、この大会で再び輝きを取り戻す生徒も少なくない。同月4日、東京都の講道館では柔道が行われた。男子90㌔超級で準優勝した福岡県立小倉南高4年の早川海斗さん(20)は中学時代、福岡県でベスト8に入った。「進学した高校では練習についてけいず、色々あって、やめて」昨年、夜間定時制の同校に転入。「高卒の資格が欲しいだけだったけど、先生が『もったいない』と、柔道ができる部をつくってくれました」。朝から昼間まで運送業の仕事をし、授業後の午後9時から30分間の練習に集中して励む。「好きな柔道ができる幸せと、あきらめないことの大切さ。部活動は特別な存在です」同月10日の東京都の駒沢オリンピック公園陸上競技場。陸上の女子走り幅跳びでは、神村学園高福岡学習センター2年の紀井虹穂さん(17)が4㍍91を跳び、優勝した。ベスト記録は、昨年入学した全日制の高校から出た大会でお5㍍34.これは今年の全国高校総体の福岡県予選で8位に相当する。ただ「学校では先生と合わなかった」という。昨年11月、通信制の同校に転入した。「中学から人見知りで人間関係がしんどく、それが積もり積もって。今の学校はいろんな境遇の仲間が優しい。マイペースで部活もできます」「大会新(5㍍54超)」と、紀井さんは来年の目標を口にした。(中小路徹)
朝日新聞2019年10月17日夕刊9面:ラテン音楽 同じルーツの君 午後8時40分。岐阜県立加茂高のグラウンドに照明がともる。授業を終えた定時制のサッカー部員が集まってきたラテン音楽が流れる中、ミニゲームが始まった。訪れたのは9月19日。8月の全国高校定時制通信体育大会のサッカーで、この連載の2回目で紹介した六本木高を取材していた試合胃の対戦校。外国人が部員の大多数を占め、気になっていた。「定時制の生徒は126人。その約7割がフィリピン、ブラジルの国籍か、日本国籍でも両国にルーツがあります」と、副校長の浅野忠一郎さん(64)が説明する。学校がある美濃加茂市、近隣の可児市には、自動車やアルミ缶製造などの工場が多く、そこで働く外国人の子女が入学している。日本で生まれた人もいれば、親と日本に来た人もいる。日本語の習熟度も基礎力もバラバラ。6割がアルバイトをする。そんな生徒が夜間の同校に集まるのは、昼に働く必要がある経済的な理由だけでなく、授業内容やプリントをポルトガル語やタガログ語に翻訳するなど、生徒の補助をする指導員3人が配置されているからだ。サッカー部は14人。日本人1人以外は全員ブラジルにルーツがある。中学までサッカーを経験した者が半分ほどだ。保健体育教諭の若宮洋介さん(28)は、顧問になって4年目。「生徒たちは朝から仕事をして、授業を受け、かなり疲れているはずなのに、授業が終わってから部活をやりたがる。とにかくサッカーが好き。そんな中、大会で結果が出ました」。今年は3チームによるリーグ戦の予選を勝ち、6年ぶり4度目の出場だった。ルーツを共にする仲間が多いため、部活は自分自身を解放し、自尊心を確認できる場所でもある。「中学時代、ほとんど学校に行かなかったり、成績がオール1だったりしたのに、部活を頑張るめに高校では皆勤という生徒もいます」と若宮さん。午後9時半、短い練習が終わった。4年で主将の西島エリキさん(18)は「暑くて、走れなくて」と、0-5と完敗した真夏の日中の六本木戦を振り返った。サンパウロ生まれ。5歳の時、親と日本に来た。今年度当初、チームは人数不足で試合出場が危ぶまて、他の4年と部員確保に努めた。「1年の教室ごとに『サッカーやろう、楽しいよ』と言って回った」と新開オナルドさん(18)。渡辺誠司さん(19)は「毎日、サッカーをするために学校に来ている感じ」。最近まで自分はブラジルにしかルーツがないと思っていたが、両親とも日系と知り「ショックだった」と笑う。今夏の体育高会、サッカーではメンバーに外国人がいるチームが珍しくなかった。バスケットボールでは、フィリピン人が多くを占めるチームも出場していた。外国人労働者が増え、共生が求められる日本社会。高校定時制の部活動は、使用制限が多い学校外の施設を探す必要がなく、仲間がいるという点でも、スポーツを楽しめる貴重な場になっている。(中小路徹)
朝日新聞2019年10月18日夕刊9面:選手減っても ここ守るため 8月12日のバレーボールの開会式は、神奈川県立平塚市の平塚商工会議所の一会議室で開かれた。大会の式典委員長、稲岡諒彦さん(31)は、例年とは違う式次第づくりに忙殺された。全国高校定時制通信制体育大会のバレーボールは昨年まで、同市のアリーナと体育館を併用し、4日間の日程で開いてきた。それが今夏は来年の東京五輪の影響で、アリーナを8月13日から3日間確保するのがやっと。試合前日の開会式も簡素にせざるを得なかった。控えを含めた選手全員は会場に入れず、各校レギュラー6人がパオプいすに座る形式にした。入場行進もなく、出場校は紹介のみ。選手宣誓時に各校主将が校旗を掲げるセレモニーも割愛した。稲岡さんは昨年度まで、千葉県立松戸南校の定時制で数学教諭とバレーボール部の顧問を務めていた。大学までバレーボールをしていたことから、定通制の教員が中心になる大会運営にも携わってきた。今年度、全日制の沼南高に転勤しても大会に関わるのは、一言で言えば「いい大会」だからだ。今年も、稲岡さんには心動かされる出場校があった。バレー経験者3人と初心者3人とおぼしきチーム。相手チームから狙われる初心者たちを、一見やんちゃな経験者たちが、プレーでも声かけでもかばい、戦っていた。「運営はいつも人手不足。でも、これからもかかわれたらいいなと思います」大会は規模が小さくなりつつある。ソフトテニスは2016年以降、全国大会に来る合計人数が500人を割った。バレーボールも今年、出場校は男子が24都道府県28校、女子は23都道府県27校と、昨年に比べ男子は5校、女子は8校減った。サッカーやバスケットボール女子も出場校がない空白県が半分程度ある。ただでさえ少子化で高校生全体が減る中、生徒数がその約8%の定通制は団体競技でチームを組みにくくなっているのだ。それでも関係者は大会存続に力を注ぐ。8月4日に東京都の講道館で開かれた柔道では、那覇で鍼灸接骨院を開く嘉数直也さん(36)が今年も医務担当役員として交通費を負担してやって来た。嘉数さんは地元沖縄でも、16歳で上京して建設の仕事を始めた後も、バイクを乗り回す日々を送った。そして世田谷工高の定時制に入学。「勉強はおもしろくないし、遅刻ばかり。ただ、先生から柔道を勧められてやってみると、強かった」その後は柔道に夢中になり、全国の男子団体ではベスト8入りし、卒業後は柔道整復師、鍼灸師の資格を得た。「柔道がなければ高校を卒業できなかった」。そんな感謝の思いが大会にかかわる動機になっている。たとえ挫折を経験したとしても再チャレンジできる場であるとともに、学校に通うための心の支えにもなる場所。定通制の部活動の意義をよく知る日々との熱い気持ちによって大会は支えられている。=おわり(中小路徹)

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