10月16日 進化し続ける自動運転

朝日新聞2019年10月14日7面:IT企業参入 激化する開発競争 /自動運転は、システムが高度な運転をこなす商業実験が行われるまで進化している/次世代技術は自動車産業を一変させる可能性があり、業界を超えた合従連衡が進む/法規制や雇用減など課題は山積みだが、生活を豊かにする可能性も秘める サンフランシスコ支局長 尾形聡彦 /追及する方向に違い 自動運転はどこまで進んでいるのか。「レベル4」と呼ばれる世界最高水準の商業実験を始めた米グーグル系自動運転企業「ウェイモ」を訪ねた。アリゾナ州フェニックス郊外にある実験施設の外で自動運転車「ウェイモ・カー」に乗り込むと、目の前にタブレット端末があった。画面上の「運転を始める」のボタンに触れると、車が進み始め、行動に出た。ハンドルが小刻みに動き、器用に方向を変えていく。洲の規制で運転席には有事に備えて人が座っているが、ハンドルを握ることはない。運転席の横の画面には、車の前後左右の状況が立体的に再現され、周囲の車両の大きさや速度もわかる。トラックが行き交うT字路にさしかかると、往来が途切れたところで、近づく車の速度を見極めて左折した。自動運転の6段階のうち、上から2番目の「レベル4」では、高速道路など特定の環境下でシステムがすべての運転を行う。ウェイモは昨年12月から、一般の人を自動運転車で送迎する商業実験をしている。技術の鍵が、レーザー光のパネルを使って周囲の状況を見極める「ライダー(LiDAR)」と呼ばれるセンサーだ。屋根の上や左右などに六つ搭載し、それを19個のカメラで補完する仕組みで、330㍍先までの交通状況を把握できるという。こうして蓄えた膨大な走行データで人工知能(AI)を進化させ、運転の精度を高めている。日本の自動車大手は、「高速道路での自動車追尾」などにとどまる「レベル2」とみられている。トヨタ自動車が2016年にシリコンバレーにつくった「トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)」で注力するのは、運転を補助する技術の研究だ。車の周囲で事故が起きたきと、センサーで状況を把握し、AIが車を加速させたり、児童でハンドル操作を補助したりすることで運転手を助け、事故を切り抜けるイメージという。米国防総省でロボットやAIの第一人者だったギル・プラット・TRI最高責任者(CEO)は朝日新聞の取材に、「我々は『完全自動化』と、『運転補助』の両方を追求しているが、実用化という意味では『運転補助』のほうが早いと考えている」とウェイモとの違いを強調した。「AIは(周囲状況の)認知は得意だが、予測は非常に困難だ。特に人間の行動予測は難しい」といい、「レベル5」への到達はまだ遠いとみているからだ。プラット氏の見方を、ウェイモのドミトリ・ドルゴフ最高技術責任者(CTO)にぶつけてみた。ドルゴフ氏は「難しい質問だ」と認めつつも、「(機械が)素晴らしい運転手になるために、詩を書くような、完全な人間の知能は必要ないと思う」と語り、「レベル5」に邁進する姿勢を示した。巨大IT企業としてAIなどの技術革新を先導するグーグルと、自動車メーカーとして人間の運転者を中心に考えるトヨタ。アプローチの違いは、異業種が同じ土俵で競い合う自動運転の大競争時代を象徴するものでもある。 /業界越えた合従連衡 自動運転の技術開発は今や、巨大IT企業と自動車大手、ベンチャーが合従連衡する戦国時代の様相だ。大手のなかでいち早く「レベル4」の商業実験まで進んだウェイモは6月、仏ルノーと日産自動車、三菱自動車の3社連合と、自動運転の事業化に向けた独占契約を結んだ。欧米大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と組んでおり、米欧日の市場に足場を築いた。同じ「レベル4」でせめぎ合うのは、米ゼネラル・モーターズ(GM)系でホンダも出資するGMクルーズ。GM、ホンダは自動運転によるライドシェア(相乗り)向けの自動車の共同開発も進めている。一方、トヨタはソフトバンクと昨年9月、自動運転による宅配などを手がける「モネ・テクノロジーズ」を設立。今年4月にはソフトバンク系ファンド、自動車部品大手デンソーと、米配車大手ウーバー・テクノロジーズの自動運転開発部門に計10億ト㌦(約1070億円)出資すると発表した。巨大IT企業の参入も相次ぐ。米アマゾンなどは2月、米電気自動車(EV)大手テラスの「将来のライバル」と目され、自動運転も手がけるEVベンチャー「リビアン」に計7億㌦(約750億円)を出資すると発表。アップルは、自社で研究を進めている。中国でも、IT大手百度(バイドゥ)が主導する自動運転開発連合「アポロ計画」に世界100社以上が名を連ね、トヨタやホンダも参画。自動運転ベンチャーの小馬智行(ポニー・エーアイ)も試験を重ねる。
/慌てる従来型の大手 多彩なプレーヤーが顔をそろえるのは、自動運転が自動車産業を一変させる可能性を秘めているからだ。内燃機関や変速機を持つガソリン車は、技術や製造ノウハウの蓄積がモノを言う。技術を積み重ねてきた日米独の自動車大手が髙い競争力を維持し、外からの参入は容易ではなかった。そこに現れたのが、「CASE」(ケース)と呼ばれる次世代技術。ネットでつながる車、自動運転、シェアリング、EVの英語の頭文字を合わせた総称だ。その主役の一つ、自動運転はAIの進化に伴って開発が進み。「レベル4」の実験段階に入った。人間が運転するという前提が変わりつつある。さらにEVでは内燃機関や変速機が不要のため、3万以上といわれてきた乗用車の部品数を大きく減らせる。テラスや中国の新興EVメーカーが急伸するゆえんだ。テラスの時価総額が18年にGMを超えていたのは、主役が交代しつつあることの証ともいえる。乗用車の付加価値は自動運転に握られ、EV化で製造のハードルも大きく下がると、車本体は「箱」のような存在になる可能性がある。複雑に絡み合う出資や協力関係は、AIで圧倒的な優位性を持つ巨大IT企業の参入を前に、従来型の自動車大手が慌てて一枚かもうと投資する構図にも見える。 法整備・雇用減・・課題はまだまだ 豊かな生活 導く可能性も 解決すべき課題は多い。自動運転社会の実現を先導する米国も、法整備はこれからなのが実情だ。カルフォニア大学バークリー校の持続的輸送研究所によると、自動運転法制は40以上の州で提案されたり、成立したりしているが、ほとんどが実験手続きを定めたもの。実際に公道を走る共同運送サービスまで想定した法律を整えたのは、2~3洲にとどまる。事故の責任を負うのがドライバーなのか、メーカーなのかなど、社会的な議論が必要な論点も多い。シャーヒーン共同所長は「もっと積極的な政策が必要だ」と行政面での対応を訴える。社会の備えが追いつかない中、完全自動運転で走る車による死亡事故が起き、米国内外に衝撃を与えた。アリゾナ州の公道で18年3月、米配車サービス大手ウーバーの自動運転車が、道路を横断しようとした女性をはねて死亡させたのだ。自動運転車への不安が広がった。米IT大手の幹部は「消費者が技術を信頼しなければ、利用も進まない」と話す。自動運転が普及すれば、運転手の雇用が失われる心配もある。ウーバーは米市場への上場申請書で、自動運転への投資を進めると「運転手の必要性が減少し、それが運転手の不満を高めるおそれがある」と記した。課題山積みの自動運転だが、生活を豊かにする可能性も秘める。高齢者でも安全に移動しやすくなるなど、社会的な課題の解決にも役立ちそうだ。ウェイモの商業実験に参加しているアリゾナ州の会社員ニック・コックスさん(28)は、利点について「一番大きいのは、車内で自分の時間を得られることだ」と語った。洗濯機などの家電製品が家事に費やす時間から人を開放したように、自動運転でドライバーはもっと自由な時間を手にできるようになるかもしれない。

 

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