10月11日 大停電災害 直面した命の危機①

東京新聞2019年10月9日1面:家業吹き飛んだ一夜 ユリのハウス壊滅 突然職探し 千葉台風被害1ヵ月 鉄骨がひしゃげ、引き裂かれたビニールハウスが被害の大きさを物語る。花の栽培で知られる千葉県南部の鋸南町。「たった一晩で世界が変わった」。台風15号の強風で無残に変わり果てたビニールハウスを前に、花農家の石井久晴さん(46)は肩を落とす。9月9日に首都圏を襲った台風15号の被害が特に甚大だった千葉県では、農林水産業の被害額が約411億円に上った。中でもビニールハウスの被害額は200億円と大きい。石井さん家族は父親の代から60年、彼岸の仏花などで使われるテッポウユリを育ててきた。9日午前2時ごろ、自宅が停電し、明け方にはビニールが破れる音がした。早朝に見に行くと、ハウス10棟すべてが倒壊し、出荷間近のユリ約5万株がなぎ倒され、茎が折れていた。「何十年もやってきたことが吹っ飛んだ」。涙を流すしかなかった。ユリで1千万円ほどの収入を見込んでいたが、収入減は断たれた。逆に、10月中に支払予定だった仕入れ済の球根代などで1千万円の負債が残った。ハウスを再建する場合、さらに数千万円が必要になる。両親を含む6人家族。「もう無理だ。辞める」。ハウスから戻った石井さんが打ち明けると、家族は黙って決断を受け入れた。停電は12日夜まで続き、夜はろうそく1本を囲んで今後のことを話し合った。断水もあり、トイレの水を流すために、雨のため泥で濁った川を何度もくんだ。冷蔵庫も保管していた出荷直前の2千株のユリも、停電の影響で温度が上がって花が開き、売り物にならなくなった。被災した農林水産業者に対し、県は緊急の災害対策資金として、無利子の貸付制度で再建を支援する。農林水産省も被害を受けたハウスの再建経費の補助を決めた。だが、石井さんは「融資を受けても返済に何年かかるかのか見当もつかない。手伝ってくれていた両親も高齢で体力の限界。ばくだいな借金をしてまで続ける意味があるのか」と、廃業を決断した理由を話す。2人の息子のうち、中学3年の長男は高校受験を控える。月2万円の塾代や進学の費用を工面するため、石井さんは職探しを始めた。正社員の求人は20~30代ばかり。「40すぎで農業以外は未経験。しかも無資格。どこも採用してくれないのでは」と焦りが募る。JA安房鋸南支店(鋸南町)によると、石井さんのほか数軒の花農家が廃業するか検討中だという。担当者は「国や県の支援はあるが、具体的な説明を受けていない。農家も片付けが忙しく、手続きの余裕などない」と話す。県の融資が始まるのは10月下旬以降。国や県は、被災地で順次、支援策の説明会を計画するが、再建への道のりは遠い。(丸山将吾) ◇千葉県などに大きな被害をもたらした台風15号の上陸から9日で1ヵ月。国や県などの初動の遅れ、大規模停電発生後の東京電力の復旧見通しの甘さに、命の危機に直面した被災者からは怒りの声が上がる。災害対策で何が足りなかったのかを検証する。
畜産業も大打撃 千葉県内では停電の長期化が、全国有数の規模を誇る畜産業にも大打撃を与えた。県農林水産施策課によると、4日時点で卵を採る鶏やブロイラーは44万羽、乳用牛、豚など6907頭が被害を受けた。いずれも家畜の感染症対策のため空調の効いた施設で飼育されていることが多く、電気が止まって熱中症で死んだケースが目立った。他に、冷蔵施設に保管していた生乳や鶏卵など計1695㌧が腐るなどして、出荷できなくなった。

 

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