10月10日 税への抵抗感 強い日本 

朝日新聞2019年10月8日26面:政府 必要性説かぬまま国際発行でしのぐ 国民 「お上が取り立て」欠ける「公」の意識 消費税率が5年半ぶりに引き上げられ、10%になった。日本は、税への負担感、いわゆる「租税抵抗」が強いとされる。不公平な税制のあり方や「無駄遣い」への怒りはもちろんだが、根本的な税に対する忌避感はどこから来るのだろうか。1989年の消費税導入時には、政府は強い反発にさらされた。10%への引き上げを巡っても、政府は2回、景気の減速などを理由に延期し、軽減税率やポイント還元を導入することで、反発を和らげようとした。それでも、朝日新聞の世論調査(9月14・15日)では、10月からの引き上げについて、賛否は46%で拮抗していた。世界的に見ても、日本は低い租税負担率にしては「痛税感」が強い国だ。日本の国民所得に占める租税負担率は25.1%(2016年度)で、経済協力開発機構(OECD)加盟の34カ国中5番目に低い。一方、中所得の人が「税負担が重い」と答えた割合は61%と、日本より租税負担率の高い北欧はじめとする欧州諸国よりも高い(ISSP<国際社会調査プログラム>06年)。『租税抵抗の財政学』の共著がある佐藤滋・東北学院大学准教授(財政学)は、「日本の租税抵抗は、戦後の生活保護政策が影響している」と指摘する。佐藤さんによると、戦後、政府は「個人の自立」に重点をおき、公共事業などを通じて、雇用の確保を最優先にしてきた。税収が増えると、社会保障の充実に使うよりも、所得税の減税を繰り返した。「政府は戦後一貫して、税の必要性をしっかり説いてこなかった。そうした姿勢が税への忌避をいっそう強めた面がある。今回の消費増税も『財源が足りないから仕方がない』と重い人はいても、これを積極的に支持しようという人がどれだけいるか」と指摘する。政府は租税抵抗をそらすため、財政需要が生じた場合は、社会保険料の引き上げや国債発行でしのいできた。個人への直接的な「見返り」が見えにくい税と比べると、国民に受け入れられやすいからだ。国債など政府の債務残高の対国内総生産(GDP)比は、200%を超え、先進国で最悪の水準だ。日本の租税抵抗の強さは、社会の成り立ちとも深く関わる。『タックス・ジャステス』の著書がある伊藤恭彦・名古屋市立大学教授(政治学)は、「政府は、社会の『共同の目的』を実現するために存在し、そのために必要なものが税だ」と説明する。だからこそ、人々が政府の存在をどうとらえているかが、租税抵抗に影響するという。「日本には、西欧の市民革命のように民衆が自らの手で圧政を倒して政府をつくった経験がない。戦後に近代的な税制を導入しても、『私たちの政府』という実感は持てないまま、税につては近代より前のお上による暴力的な取り立てのイメージだけが残った」と伊藤さんはみる。神野直彦・東京大学名誉教授(財政学)は、日本には、「公」の意識が成熟していないことを一つの要因に挙げる。北欧では、地域の教会を中心にした「教会税」のように、仲間で支え合う関係が社会の基礎にある。地域社会で互いに協力しながら、医療や教育、福祉などのサービスを分かち合う「分担金」のようなものだ。こうした仲間意識の延長線上にある「公」の意識が、租税抵抗を和らげるためには欠かせないという。「今の日本は、政府に対してだけでなく、他者への不信感も強まっているようにみえる。他人を信頼しない社会に、互いに負担し合おうという互恵主義は生まれにくい」と危惧する。日本では、少子高齢化が進む一方、格差や貧困もあらわになっている。「みんなで支え合って生きていこうという社会を作りたいのか。それとも、自己責任で生きていこうという社会がいいのか。税は、根源的にはそれを問うている」という。(立松真文)
「強制」「無償」同意を得るには 古来、支配者が集めた年貢や貢ぎ物は存在した。では、近代の「税」とは何が違うのだろうか。東北学院大学の佐藤滋准教授は、「支配者の私的目的に使われるか、みんなのために使われるのか。税と貢ぎ物を分ける大きなポイント」という。例えば、西欧の封建国家では、領主は所有地などからの収入や家臣からの貢納など、自らの「家産」を私的に使えた。だが、近代になると、人びとに土地の私有が認められ、国家は「無産」となった。大きな資金が必要な時には、人びとに、共通の困難に対処するため財源であることを説き、「同意」を得て、お金を集めなければならなくなった。これが近代の税の原型の一つとされる。近代の税には、自分たちの支配者が決めたルールに基づいて微収されるという「強制性」がある。また、みんなのために使われるので、支払っても自分への直接の見返りはないという「無償性」も併せ持つ。佐藤さんは、「そうした税の持つ特性を乗り越えて人びとの同意を得るには、税を集める側は、常にその必要性を説き続けなかればならないのです」という。

 

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