10月11日 人生の贈りもの 作家 浅田次郎【13】

朝日新聞2017年10月4日31面:井上ひさしさん人生観似ている 《作家としての恩人は、井上ひさしさんだった》最初に会ったのは21歳の時。表参道で後年の女房になる人とウナギ食ってたんだよ。見栄をはって、勝負ウナギ。並みでいいなとか言いながらさ。そしたら隣に座ったオヤジが「特上」とか言って、この野郎と思って振り返ったら、どっかで見た顔。小説家は外で会って分からない人もいるけど、井上ひさしさんは不利な顔だぞ。どんな遠くから見てもわかるもんな。「おお、井上ひさしだ」って。
作家になってからは、折々に見守ってくれた人でした。吉川英治文学新人賞も、その本賞の時も僕の小説を審査してる。代表作をことごとく読んでいただいた人なんです。〇まつけてくれると思います。小説の神様が引き合わせてくれたんだろうね。
ある文学賞で新選組の作品が候補になったらしいんだ。僕が『壬生義士伝』で別の賞を取ったあとで、選考委員だった井上さんは「この作品で受賞したら時代作家になってしまう。避けた方がいい」と言って下さったらしい。そこまで見てくれる人。ありがたいと思ったよ。
実際とても気遣いをする人でした。ペンクラブの理事会に、大船軒の寿司を両手にさげてくる。みなんで食えるぐらいの量。何だか悪くてさ。文学的な影響を受けた訳ではないけど、あの人の言うことはよく分かった。「分かりやすく」「笑いがなければ」というもの同感。人生観が似ているんじゃないかなと思う。
亡くなった時、僕は諏訪の温泉にいました。出てくる食べ物が蜂の子、ザザムシ、馬刺し、桜鍋。一切駄目。女将に、変えられますかって。ウナギならと言うので、出前を取ってもらったんです。その時は「特上」でね。ふっと井上さんのことを考えたんだ。ウナギが好きな人で、何回もごちそうになってね。「井上さん亡くなりました」って。後輩としては喪失感がある人だった。ああ、いないんだと今も考えさせられます。(聞き手 高津祐典)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る