10日 私の10本 吉永小百合【12】

東京新聞2017年5月7日2面:夢千代日記【上】 苦手な役柄 特別な作品 吉永小百合さんが、出演した10本の映画とテレビドラマ1本について語る。今回は、テレビドラマ「夢千代日記」だ。 「映画で『キューポラのある街』があるように、テレビでは『夢千代日記』がある。私にとって、それくらい大きな意味を持つ作品ですね」 「夢千代日記」は1981年2月から3月にかけ、NHKの「ドラマ人間模様」の枠で、5回にわたって放送された。
吉永さんが演じたのは、山陰のひなびた温泉町で芸者置き屋を営む女性、夢千代。母親の胎内で広島の原爆に遭遇し、原爆症に苦しんでいる。限られた時間を懸命に生きようとする夢千代と、彼女を取り巻く人々の人間模様を描いたドラマは、視聴者の心をとらえ、82年「続 夢千代日記」、84年「新 夢千代日記」とシリーズ化された。
自らの苦しみに耐えながら、周囲の人々が起こす事件を冷静に受け止め、彼らの悲しみや痛みを優しく癒やす夢千代は、吉永さんのイメージとぴったり重なった。「重なってない。生まれた年も同じという設定なので、みなさんがそう思ってくださるだけで、全然違うんです(笑)。私自身は、いろんなことにアクティブに生きていく方が得意だし、役的にもじーっと悩んじゃうような役は、本当は苦手なんです。脚本の早坂暁さんがご自分の戦争の時の体験や、昔お聞きになったことがある芸者さんのエピソードを、私と重ね合わせて書いてくださったメルヘンです」
大人のおとぎ話に血肉を与え、素晴らしい作品にした一因は、当時のテレビドラマの丁寧な作り方にもあった。「リハーサルを二日間やって、本番を二日撮る。ロケはまた別に行くという方式なんです。早坂さんは超遅筆で有名な方で、ドラマの2回目からは、稽古場に生原稿が1枚ずつ届くんですよ。印刷する時間もないから、早坂さん独特の事態で書かれた脚本をコピーで渡される。そうすると、何か、感じるものがあるんですね」
このドラマでは、秋吉久美子さん、樹木希林さん、楠トシエさん、緑魔子さん、夏川静枝さん、中条静夫さん、ケーシー高峰さんら脇役を固める俳優たちも魅力的だった。脚本とドラマが同時に進行していたため、自分の役柄はだいたい分かっていても、周りの人のそれはよく分からない。第一シリーズで重要な役割を担う刑事を演じる林隆三さんも「第一回を演じられたときは、後半で病気になるとは思ってなかったかもしれませんね」と吉永さんは言う。そのライブ感覚が、ドラマを生き生きとさせている。
「演出の深町幸男さんが、とにかく大げさな芝居はやめましょうと言われて、ふだんしゃべっているくらいの声の大きさで通しました。それをマイクがきちんと拾ってくれましたし、ふわっとしている雰囲気の中でずっとやれました」
武満徹さんの音楽も素晴らしかった。吉永さんは今回見直して「タイトルバックで映る余部の鉄橋と海の波を見て、テーマ音楽を聴いているだけでたまらない気持ちになった」と言う。 「小さな温泉町で、傷をいっぱい持った人たちが、言葉には出さないけれどいたわり合っているというドラマですね。そんな内容だから、セットでずっとやっている中で、皆に不思議な連帯感みたいなものが生まれた。それが、見る方にもどこかで通じたのかもしれませんね」
(聞き手=立花珠樹・共同通信編集委員)

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