1月14日 サザエさんを探して スリラー

朝日新聞2020年1月11日be3面:サスペンスに押されつつ 怪漢がナイフを投げつけた。だが刺さったのは米袋。散らばる米粒にスズメが群がる。マスオが一言。「どうぶつ好きの書かれたスリラーはすごみがないですなア」思わずクスッとさせるこの話は1962年4月に掲載。翌63年には鳥が人間を襲うあのアルフレッド・ヒッチコック監督の「鳥」が公開されている。これは偶然か。作者の長谷川町子さんは原作を読んでいたのか。ダフネ・デュ・モーリア作の同名原作を含む作品集は63年に翻訳刊行。だがかなり前の52年、「鳥」はすでに別の出版社から別の訳者で出版されていたが、果たして・・。「それにしても、『サザエさん』は推理小説的というか、意表を突く落としどころが多い。最後に、あ、こう来たかと驚かせる。その技はすごい」 東京・神保町の仕事場でそう話すのは、公安警察が舞台の「MOZU(百舌)シリーズ」などで知られる直木賞作家・逢坂剛さん。子供の頃から毎日のように家で「サザエさん」を読んでいた。最近はあまり使われなくなった感のある「スリラー」だが、大学入学が62年の逢坂さんは「当時はスリラーの方がサスペンスよりよく使われた記憶がある」。50年代後半から60年代前半にかけて福永武彦、中村真一郎、丸谷才一が推理小説誌に連載したエッセー集「深夜の散歩」が最近復刊された。それを読むと、50年代後半の海外探偵小説の傾向が「名探偵中心から『スリラー・システム』に移ったと福永武彦が指摘しています」と東北芸術工科大学教授で文芸評論家の池上冬樹さんは語る。その特徴は「不安と恐怖」。謎解き中心の本格もの以外の犯罪がらみの作品が米国で一般に「スリラー」とジャンル分けされたことから、当時は日本でもそう呼ぶこともおおかったようだ。一方で、日本人の感覚にもっとしっくり合う表現が、サスペンス。63年刊行の短編集「鳥」の裏表紙には「サスペンスと恐怖に満ちた物語の数々!」とあるが、「スリラー」の記述はない。「僕らはヒッチコックを『スリラーの巨匠』というよりも、やはり『サスペンスの巨匠』と呼びます」と池上さん。文筆活動を本格的に始めた80年代半ば、日本ではもっぱらサスペンスが使われていた。ポリティカル・スリラーなど海外での表記をコピーしたものもあるが少数派。いまやスリラーといえばマイケル・ジャクソンの大ヒット曲がまず浮かぶ。にほんでは謎解き中心の本格もの、ハードボイルド、サスペンスなど犯罪がらみの小説を総称して「ミステリー」と呼ぶ。昨年12月に発表された週刊文春の「ミステリーベスト10」の海外部門は、20位までに英米や北欧ミステリーに加えドイツ語、フランス語、さらには中国語の作品が入るなど、グローバル化も大きな特徴だ。ちなみに約30年前に亡くなったデュ・モーリアの「鳥」などの諸作品は、2000年代になって東京創元社が刊行している。「人間心理を鋭く突いた彼女の作品はいまも古びていない」と担当者。「読み出したらやめられない面白い小説を書くのが願い」という作家の逢坂さんは語る。「私に言わせれば、小説というのはすべてミステリーであり、冒険小説だ。あらゆる人生の営みが冒険であり、ミステリー。人生、一寸先は闇なのだから」(小北清人)

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