1月13日 触られない乳がん検診めざして

朝日新聞2020197面:リリーメドテック社長 東志保さん(37)あずま・しほ 1982年 母の闘病が原点 装置開発へ夫と起業 ー「乳がんと闘う」と宣言し、早期に発見できる医療機器の現実をめざしていますね。「日本の女性の11人に1人が乳がんにかかるとみられ、年間の死亡者数は約14千人にのぼります、乳がんは早期に発見して治療すれば、ほぼ確実に助かる病気なので、検診率を上げることが大切です。いま主流のエックス線を使うマンモグラフィーの課題を克服して、検診を受けやすい画像診断装置を開発しています」 ーマンモグラフィー検査の課題とは?「エックス線による放射線被曝の問題に加え、乳房を強く挟んで検査するため痛みを感じる人が多い。私たちの検診装置は、超音波を使うので被曝の心配はありません。乳房を圧迫せず、自然な形に近い3D画像が撮れるようになります」 ー超音波を使った乳がんの検査装置は今もあますが、違いは?「現在の超音波診断装置は(ハンドヘルドエコー)は資格を持った技師が測定器を動かしながら検査します。うまく撮影するためには技術が必要になります。私たちの診断装置はベッドの穴の中のリング状の測定器を置き、そこに乳房を入れるだけで、その周りを自動的に動いて撮影します。誰かに見られたり、触られたりせずに検診を受けることができます」 ーお母さんを亡くされたそうですが、創業のきっかけだそうですね。「私が高校入ってすぐ、母は頭痛がするって言い始めて寝込むようになったんです。悪性度の高い脳腫瘍と診断され、『1年半』の余命宣言を受けました」「母は入退院を繰り返し、いろいろ治療したんですけど医師の宣告通り、46歳で亡くなっていまって。抗がん剤の副作用で髪の毛が抜け、やせ細った母の姿は、見ていてとてもしんどいものでした。同じような経験をする子どもたちを少しでも減らせれば、と思って起業しました」 ー闘病生活を支えるのは大変だったでしょう。「母は家庭にとって精神的な中心でした。病気になると、周りが影響を受ける。会社勤めの父が仕事をやりくりしながら、祖母と手分けして付き添いをしていました。家族の誕生日やクリスマスはみんなでお祝いし、山登りや旅行にも全員で出かける仲のよい家族でしたが、すれ違う時間が多くなり、ばらばらになってしまいました」 ーもともと医療分野に関心があったのですか。「中学生のころ、女性科学者を描いたSF映画『コンタクト』に感激して宇宙に憧れました。念願かなって米国の大学院で宇宙科学を専攻していましたが、父が突然亡くなり、経済的な問題から研究の道を断念したんです」「就職した測定機器メーカーの仕事が合わず悩んでいたとき、東大で研究していた夫から『現在の乳がんの診断装置が抱える課題を克服できる』と聞きました。社会のニーズのあるところにシーズ(種)があると考えて4年前、一緒に会社を立ち上げました」 ー妻が社長、夫が取締役という体制は珍しい。「会社をつくろうと夫が言い出したとき、最初は外から社長を連れてくるつもりだったんです。でも何人か面接しても適任者が見つからなくて」「半年近くたったころ、夫から『君が社長をやってくれ』と言われ、ビックリしました。いったん断りましたが、『判断力があるから君は社長に向いている』と外出先でも家でも説得されて(笑)。最終的には、出資者であるベンチャーキャピタル(VC)の意見を聞いて決めました」 ー今後の計画は?「2年以内に薬事承認を受けて、販売にこぎつけたい。やがては人工知能(AI)による診断支援を搭載し、超音波を使って、乳がんの病変部分だけを壊す治療機の開発もめざしています。将来は上場を考えています」 ー夫婦で二人三脚の体制に、やりにくさを感じることは?「私は資金調達、夫は製品開発の責任者なので、自然と目線が違ってくる。夫から開発にかかる費用を伝えられると、ふざけるなという気持ちになることもあります(笑)。『なんでそれだけ資金が必要なのか?』と説明を求めています」「ただ、会社のツートップがケンカしているように見られると、社員が不安に感じるかもしれないので、激しい議論は職場ではしないように心がけています」 ー上場すれば家族経営は通用しなくなります。「夫婦だけで全部物事を決めていくと、会社の成長にはどうしても限界が出てきます。いま取締役は私と夫、VCから来ている社外取締役の3人。社外取以外にも従業員の意見も採り入れています。取締役の数を増やして、さらにいろいろな意見を経営に反映させています」 ー利益偏重にならないためには?「出資を受けている以上、目標の利益は達成しないといけない。でも利益だけを追うと、苦しいときに何でこだわっているんだろという気持ちになる。モチベーションを維持するには、社会的課題の解決に結びつくミッションを持つことが大切なんです」(堀篭俊材) 聞き手のひとこと 記者になって1年目の30年前、母をがんで失った。病巣が見つかり、わずか1カ月後。「相当がまんしていたはず」。医者にいわれ、早く検診を受けさせていたら、と悔やんだ。自分のように悲しい思いをさせたくない。東さんの志が実を結ぶ日を願いたい。 ほりごめ・としき 産業担当の編集員。最近はベンチャーに関心。53歳。

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