震災下 励ましのケーキ

朝日新聞3月14日38面:5年前の3月14日、原発事故の影響で静まりかえった福島県いわき市の駅前で1軒の洋菓子店に明かりがついていた。 そうつづった投稿が今月11日の本紙生活面「ひととき」に掲載された。その店は今も同じ駅前でケーキを並べている。
「このお菓子、売ってくれるんですか」「もちろんです、今日はホワイトデーですから」 その日、投稿者の井坂美誉(みよ)さんは笑顔で答えたのは、JRいわき駅前にある「アンジェリーク」の伊藤志保さんだ。 店は水道管が破裂し、皿や酒瓶が割れて散乱。3月12日には東京電力福島第一原発の1号機が爆発。南方40キロの所にあるいわき市も一時は人通りが途絶えた。「お店どうしょうか」夫の亨さんと相談した。ホワイトデーの予約が十数件入っていたが、電話はつながらず、家を探して訪ねても無人だった。
「もし来てくれた時に、店を閉めていたら迷惑がかかる」と考えた。3月は卒業や門出の季節お祝いする気になれなくても、少しでもお客さんの気持ちが明るくなればと思った。
夫婦2人で店を開けた。市内は断水し、仕入れもできなかったが、電気とガスは使えた。給水所に通いながら店にある材料で作れるケーキを焼いた。 やってくる客は1時間に1,2組ほど。「パンはありませんか」と尋ねる人も多かった。ケーキなんて売っていいのかな。無力感が募った。井坂さんが店を訪ねたのはそんな時だった。
14日、2度目の原発の爆発があった。翌日から1週間は店を閉めた。店舗は被災の影響で使えなくなり、県外への移転も考えたが、震災を機に店じまいした隣の花屋の建物を借り、その年の夏に移転した。 いわき市は原発の廃炉作業の人も集まり、少しずつ活気が戻った。伊藤さんは毎年、3月11日の追悼のサイレンを聞きながらホワイトデーの焼き菓子を作る。 今年は約30件の予約が入った。「みんなで無事にホワイトデーを迎えたい、と祈りながら焼きました」と話す。 井坂さんは12日に店を訪れ、「怖かったあの時、とてもお菓子が食べたくなった。ケーキに励まされた」と涙ぐんだ。

 

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