私の東京物語 又吉直樹さん

東京新聞3月27日32面:お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹さん(35)が今月、元宝塚で女優の遼河はるひさんとともに東京新聞のイメージキャラクターになりました。大阪から夢を抱いて上京した青年が見た東京とは。1回完結の特別編として「私の東京物語」を語ってもらいました。
上京したてのころの自分て、どんなんやったかなってたまに振り返ります。新宿とか渋谷歩いてて、人に声掛けられたら、全部「はい」って立ち止まってました。
そんで、話を聞いて、何か買わされそうになったり、良くわからん団体の集まりみたいなのに連れて行かれそうになったり…。
何度もそんな目に遭ってきて、今は人に声を掛けられても止まらないです。冷たくしているわけではなくて、「道がわからないんですけど…」とか言われたら止まって教えたりもしますけど、そういうようなことがなければ止まらない。
初めて上京して来た人が僕に話しかけて、僕が無視したら、「やっぱり東京の人って冷たい」って思うのかもしれないですね。だけど、みんな一度は、何か買わされそうになったり、望んでもいないような所に連れて行かれそうになった経験しているので、だれもが気い張って街を歩いているんやろうなあ、と思います。
東京には、いろんな地域から皆、出てきています。地元におったとき、マンガとかドラマとかで見る東京って華やかなんやけど、人がなんか冷たいとかいうイメージも強いですよね。
でも、上京してわかったことがあるんです。冷たいんじゃなくて、みんな地方から来て、緊張しているんだって。それぞれが東京の中で、食われへんように気を張ってる状態で、そんな個々の集合体なんですよね。だから東京生まれ東京育ちの人とたまに会うと、もうほんまに素朴というか、地方にいたときの地元の人のイメージとすごく近い。
よく人情厚いといわれる下町に限ったことでなく、僕の知り合いで、恵比寿や高円寺で生まれ育った芸人とかけっこういるんですけど、素朴で親しみやすくて、田舎のせいねんみたいなヤツらばかりなんです。それで気づいたんですね。あれ?東京の人って冷たいって、ただの偏見だったんやないかなって。
若いころは、古本屋をまわって三鷹、吉祥寺、西荻窪、荻窪によく行きましたね。たまに阿佐ヶ谷、高円寺にもって感じでした。
当時は千三百円の単行本も高くて買えなかったんですよ。だから、自分の住んでいる地域の古本屋、全部回って、店の外に出ているワゴンセールで、百円で五冊とかから有名な近代文学を探して、買って行くんです。ある古本屋に行くと、店内の棚にキレイな状態で二百円とか三百五十円とかで売ってるんですよ。コレ高いから、コレと同じものをワゴンセールで探すっていう作業を繰り返して、どこの街のどこの古本屋に行ったらどんなものが、どれほど安く買えるっていうのが頭に全部入りました。
僕の中で今一番試したいというか触れたい東京は、銀座かもしれないですね。昔の作家さんとか芸能人って、銀座でお酒飲んだとかって言うじゃないですか。でも僕らの世代で作家の人でも、銀座で飲んでいる人いないんですよ。昔ながらの「ザ・芸人」「ザ・作家」みたいな人たちを、僕らの世代ってみんな、浮かれてるものとしてちょっと軽蔑しがちなんですが、僕はそこに飛び込んでいきたいですね(笑)。
えっおまえが行くんかいっ!みたいな感じで(笑)そういう、大御所さんが行くようなお店に行ったことないですけど、食わず嫌いはあかんなと思って…。
お店もプライドあって、ええ格好して、高い値段とって。銀座はそう言われますよね。少なくとも二十代前半のころの僕なら誰よりもそういうものを嫌ってたと思んですけど、今はそうなった理由があるはずなんで、そこが知りたい。どんなプロ意識があって、銀座の値段とプライドが高いのか。なんで土地が高いか。日本一に近い地価なのに、あの辺に大きい会社がいっぱいあるわけでもない。興味がつきませんよね。
(聞き手・後藤国弘)

 

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