危険な作業「二重のピンハネ」

朝日新聞3月25日33面:福島県いわき市の男性(27)は昨年10月、東京電力福島第一原発で働くのをやめた。給料の仕組みがおかしい、と感じたからだ。「二重のピンハネがあった」という。
給与明細2種類 だんせいが地元清掃業者に「入社」したのは2012年末、最初の仕事は除染だった。入社は口約束で、雇用契約書は作らなかった。14年3月、「除染より稼げるから」と同社から原発での作業を紹介された。雇用契約を、県内の水道管理会社と結ぶよう求められた。日給は1万5000円。清掃業者は「うちもお金をもらわないと会社が立ち行かないから」として毎日2500円を差し引くことを男性に告げたという。
清掃業者は男性の通帳と印鑑を預かり、水道管理会社が振り込んだ給与を全額引き出した。そして、ピンハネ分を引いた1万3千円で計算した月給を、現金で毎月男性に手渡した。給与明細は日給が「1万5500円」のものと「1万3千円」の2種類を手渡されたという。
1年半ほど働いたころ、男性は別の「ピンハネ」に気づく。水道管理会社が清掃業者には1日2万円払っている」と男性に明かしたのだ。差し引かれた2500円を足した「日給」15500円より、4500円高い。清掃業者は毎日、二重に給料を引いていたことになる。男性が清掃業者に問い詰めると「紹介料だ。給料は増やす」と言うばかり。不振が募り、昨年10月に仕事をやめた。
清掃業者の女性は朝日新聞の取材に「通帳を預かったのは事実だが、給料日に仕事で銀行に行けない作業員の代わりに現金を引き出してあげるためだった。ピンハネはしていない」と話した。
手当増額しても  13年11月8日。東京電力の広瀬直己社長は記者会見で東電福島第一原発で働く人への「危険手当」を1日1万円増やし、2万円にすると発表した。作業員のモチベーションを上げ、労働力を確保する狙いだ。 ただ、増やすのはあくまで元請けへの支払いだ。下請け、孫請けの作業員まで届くかは別問題だ。いわき市の男性の場合、水道管理会社が作った給与明細をみると、日給1万5500円のうち、危険手当分は7千円。実際の日給は清掃会社からもらう1万3千円だったが、危険手当の内訳はなかった。  男性の仕事は、消火栓を整備する作業だった。配管が原子炉建屋へと延びていくため、作業が進むほど浴びる放射線量も増えた。建屋近くの作業員は鉛のベストを着ていたが、自分は防護服。すぐに線量計の警報が鳴り、親会社の社員が「早く逃げろ」と指示したこともあった。男性は「危険な作業なのに、除染並みの日給なのはどう考えてもおかしい」と嘆く。 ピンハネされた作業員の危険手当の返金などを求める裁判を手がける広田次男弁護士(福島県)は、「下請け発注繰り返す方法を改めないと、ピンハネはなくならない」と話す。代理人を務める裁判では、元請けの大手ゼネコンが日給を4万3千円分支払っておきながら、3次下請けで働く作業員が受け取るのは1万1500円だったこともあったという。 除染作業の場合、環境省は業者に発注する際、地域に応じた「危険手当」額を末端の労働者にそのまま支払うよう契約を結ぶ。震災直後に横行していたピンハネは最近ではほとんどみられなくなったという。だが、東電福島第一原発にそうした仕組みはない。
責任あいまいに  あいまいな雇用関係は、ピンハネだけでなく、作業員の安全衛生確保や浴びる放射線量の長期的な管理に誰が責任を持つかなどの問題を生むおそれがある。 いわき市の男性の場合、仕事の指示は、雇用契約を結んだ3次下請けの水道管理会社だけでなく、そして清掃業者からも受けたという。 東電が昨秋「作業を指示する会社と、賃金を払う会社は同じか」作業員にアンケートしたところ、回答者の14.2%(465人)が「違う」と答えた。フクシマ原発労働者相談センター(いわき市)の桂武さんは「震災から5年経ってなお、口約束で働かされる作業員がいる。雇用契約を結んだ会社が、賃金、安全管理、社会保険などすべての責任を持って働かせないといけない」と話す。(疋田多揚)

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