9月8日 新聞を読んで 永田浩三

東京新聞2018年9月2日5面:新聞は権力の道具ではない 我が家のテレビの前には大きな箱があり、気になる新聞記事を切り抜いて放り込む。いっぱいになるとえり分け永久保存版だけ残す。8月は残しておきたい記事が多かった。8月12日の社説は、「米騒動」から百年にあたって、ジャーナリズムの役割を歴史的に考察している。富山で始まった「女一揆」は新聞報道によって全国に広がった。寺内正毅内閣はそれに危機感を抱き、騒動の翌月には全国の新聞に報道を禁じた。
これに怒ったのは、東京新聞を発行する中日新聞社の前身のひとつ名古屋新聞だった。米価高騰あ政府の無能、無知、無定見が原因だとして退陣を迫った。もうひとつの前身・新愛知新聞の主筆は桐生悠々。「起てよ全国の新聞紙!」と、ジャーナリストの連帯を呼び掛けたのだ。内閣弾劾の声が広がり、報道禁止令は事実上撤回され内閣は倒れた。12日の社説は歴史の記述にとどまらない。「わたしたちは、政権に批判的な新聞との対決姿勢を強める安倍晋三政権と向き合います」ときっぱりと書いた。新聞は権力の道具ではなく、読者市民とともにあるべしと宣言する社説に心が揺れた。
19日1面は明治期の民間憲法草案「五日市憲法」を紹介していた。あきる野市の土蔵で発見されたのは半世紀前の8月。五日市憲法は国民の権利保障に力点が置かれ、いまの日本国憲法に近い内容が盛り込まれている。発見者の歴史学者・新井勝紘さんは言う。「明治政府は自由や権利を切望する人たちの声にまったく耳を貸さず、大日本帝国憲法を天皇の名において制定し、国民に押し付けた。以後戦争に突き進んだ歴史をきちんとみなければならない」
この日の2面には、「自民党総裁選2018改憲の行方」の連載3回目、「緊急事態条項の創設」の記事が載った。候補の石破茂氏は、九条改憲よりも積極的だ。災害や海外からの武力攻撃を受けたときに、国民の移動を制限し、車や家を所有者の許可なく処分できるようにしたいそうだ。こうした「私権の制限」は災害対策基本法でも可能なのになぜ急ぐのか。もうひとつ緊急事態で求められるのが「国会議員の任期延長」だ。しかし、と思う。先日の大水害のさなかでの「赤坂自民亭」に象徴されるように、与党議員が被災に対して心を寄せ、奮闘しているとは言い難い。そうではない議員もいるとは思うが、永田町のなかの権力闘争や、政治家自身の私権の拡大に一生懸命な気がしてならない。社説や記事は、しばしば歴史の節目に着目し、そこから現代を生きるわれわれに気づきを与えてくれる。今後も永久保存にしたい紙面を連打してほしい。それが日本社会をよりよくする道だと思う。(武蔵大学社会学部教授) *この批評は最終版を基にしています。

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