9月3日 約130万人に過小支給

朝日新聞2018年8月27日3面:年金機構 コスト削減裏目 委託先が入力ミス対応後手 約130万人に本来より少ない年金が支払われた問題で、日本年金機構に対して6月に業務改善命令が出された。「年金への信頼回復」を掲げた機構設立から8年。不祥事が繰り返される背景には、「コスト削減」に縛られてきたあり方の限界も浮かぶ。 「妻の名前が全然違うじゃないか」大阪府内のある年金事務所には、年明けからそんな受給者の苦情が相次いでいた。日本年金機構がこの時期に送った昨年分の公的年金の源泉徴収票で、家族の名前の誤りが続出したためだ。男性職員は「職員同士でもおかしいと話題になっていた」と振り返る。
2月、今度は年金額の振込通知書が届いた受給者から「今月の年金が少ない」とのちょい合わせが増えた。機構は13日、受給者が提出した「扶養親族等申告書」の反映漏れがあったとホームページで告知。各地の年金事務所では、申告書のコピー計500万人分と入力データを突き合わせる点検が3月まで続いた。二つのトラブルは、機構本部がデータ入力業者「SAY企画」(東京都豊島区、6月に解散)に委託した扶養親族等申告書の処理をめぐって起きた。受給者が記入した氏名などの個人データの誤入力が多数あったほか、未入力のまま放置されていたものあった。同社の作業実態は契約に違反していた。従業員数は契約時の申告数を大きく下回り、入力も手入力をせず機械で読み込ませていた。作業の一部を、中国の関連企業に再委託していた事実も判明した。
一方、機構本部の担当部署も、違反の多くについて昨年10月の作業開始後まもなく気づいていたが、「納期に間に合わせることを優先した」との理由で具体的な対応は取らなかった。SAY企画の社長は解散前、朝日新聞の取材に「別の業者が審査したはずの申告書に誤記載や不明瞭なものが多く、機構に再点検を求めた。だが、『納期に間に合わなくなる』と応じてもらえなかった」と主張。一方、機構はこうした認識を否定している。
効率優先リスク軽視 外部委託をめぐって起きた不祥事は今回が初めてではない。2012年には扶養親族等申告書の入力漏れで約7万人に計約17億円を過小支給する問題が発生。13年には全国31道府県の事務を委託した業者が破産手続きに入り、機構が従業員を直接雇用して対応した。15年には和歌山事務センターなどの年金情報入力を委託していた業者が、契約に反して別業者に作業を再委託。再委託先では給与の未払い問題も発生した。機構は今回の問題を受け、「外部委託のあり方を抜本的に見直す」(水島藤一郎理事長)とし、能力重視の入札方式の拡大や、機構が用意した場所で作業させる「インハウス型委託」の推進など再発防止策を打ち出した。しかし、それらの対策の多くは、機構設立前の08年に閣議決定された「当面の業務運営に関する基本計画」で、業務品質を保つための留意事項として示されていた内容の焼き直しだ。それでもリスクを軽視した外部委託が続くのは、「コスト削減」という制約に強く縛られてきたからだ。機構は10年、年金記録問題や怠情な職員の仕事ぶりへの批判を受け、解体した旧社会保険庁を引き継ぐ形で発足した。「「親方日の丸体質を解消する」として、徹底した業務の見直しや人員削減によるコスト削減が打ち出され、外部委託はその柱と位置づけられた。
運営経費削減の取り組みは、厚生労働相が毎年行う業務実績の評価項目にもなっている。このうち外部委託費を主とする業務経費は13年度の968億円を基準に5%削ることが当面の目標とされ、16年度は5.6%減の913億円。S~Dの5段階で「計画を概ね達成」にあたるB評価を受けた。17年度は4.3%減の926億円で、秋にも評価が下される。
中長期的な視点必要 機構の組織体質は不祥事のたびに問われ、数々の再発防止策が打ち出されてきた。不正アクセスで135万件の個人情報が流出した15年には、人事や業務のあり方など71項目の「再生プロジェクト」が策定された。組織再編や信賞必罰の評価制度といった業務見直しが繰り返される。関東地方のある年金事務所では、約50人の職員の4割が非正規で大半が5年で退職。正職員も2~3年での転勤が多く、所長は複雑な業務をこなす力が積み上がりにくい」という。
この事務所では、年金相談員を委託していた社会保険労務士が今回の問題で多数の苦情を受けて辞めてしまった。所長は「信頼回復には正確な業務とサービスの向上しかない。可能なら職員の増員など、それを後押しする改革を本部には求めたい」と語る。外部委託のあり方を検証した第三者委員会の報告書は、今回の問題で「年金への信頼を損ねたという目に見えないコストが生じた」と指摘。コストを考える際、目の前の経費削減だけでなく中長期的な視点を持つよう強く促している。厚労省幹部の一人は、報告書を踏まえて機構が打ち出した見直し策により「安さ最優先の外部委託をなくす」と説明。ただ、別の同省幹部は「問題が起き、予算や人が足りないと言えば『焼け太りだ』と批判される」。経費を増やす方向で合意を得るのは容易ではないのが実情だ。
日本総研の西沢和彦主席研究員は、「国は不祥事があれば機構職員の能力や姿勢の問題と矮小化し、メディアも『社保庁と何も変わっていない』という批判に終始してきた面がある」と話す。さらに今回過小支給になった人には、税制改正などで様式が変わった申告書を提出しなかった人も含まれており、「国がすべきは毎年のような複雑な制度改正を避けるなど、ミスの要因を減らす工夫だ」とも指摘。「適正な運営には相応のコストがかかるという認識を共有し、外部委託を含めた業務のあり方を問い直すべきだ」としている。

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