9月27日 人生の贈りもの 作家 浅田次郎【4】 

朝日新聞2017年9月21日35面:初めての図書館もうパラダイス ≪中学に入って、小説家になることを意識した。きっかけは学校の図書館だった≫ 初めて学校の立派な図書館に入った瞬間。覚えてるもん。中学1年の最初の日から2日目の日か。もうパラダイス。突然目の前が開けて、桃源郷というんですかね。背景にお花畑があるみたいな。だって小学生までは、図書館は子ども入っちゃいけないところだと思っていたから。僕が遭遇したのは、駒場東邦中学のあの図書館だった。
体を鍛えろとか、お天道様を浴びなさいとか、勉強しなさいも多少言われたけれど、本読みなさいはなかった。本は今のゲームみたいなもので、娯楽と見なされていたから。子どもに本をというのは確かだけれど、読書を勉強にするのは間違いだと思うよ。僕らは本を隠れ隠れ読んだ。隠れ隠れゲームをするような感じで。押し入れにはいって、懐中電灯で読んでた記憶がある。今度は「電池の無駄遣いだ」って怒られたけど。
中学に入る頃には、大型書店もどんどんできた。中央公論の全集「日本の文学」を毎月のお小遣いで買っていってさ。上下2段組みのこんなちっちゃい文字で。亀倉雄策デザインの全集もあったり、あの頃の文学ってやっぱりすごい。川端康成の「古都」は絵が東山魁夷。そういう組み合わせなんだよ。芸術としてのかぐわしさがあるんだよね。ページを開いた瞬間に小説の世界が匂い立ってくるような感じで。あれで僕は文学の虜になりました。
「モナリザ」がどこかの座敷に転がっていても、すごい絵だという人はそうはいないと思うんだ。だけどパリの街にルーブル美術館があって、時間をかけて歩いたら「モナリザ」があると違う。全体的なグランドデザインから芸術は進化していく。そういう意味では、電子図書はぴんとこないところがあります。
1964年の東京五輪の頃は、良い本が出版ラッシュだった。頭も心も鍛えた五輪だった。それを忘れてるよ、2020年の東京五輪は。

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