9月26日てんでんこ 音楽の力【22】

朝日新聞2017年9月20日3面:ふるさとの歌をみんなで。「励ましてくれた歌で今度はだれかを励ます」 今年7月30日、岩手県陸前高田市の米崎中仮設住宅合唱隊が、市内の集会所で開かれたコンサートに出演した。最後に、新沼謙治(61)が作詞作曲した「ふるさとは今もかわらず」を、来場者と一緒に歌った。
歌いながら、目頭を押さえる人もいた。大船渡市の南隣にある陸前高田は、東日本大震災で市街地が壊滅的な被害を受けた。合唱隊は、同市米崎町の中学校グランドにできた仮設団地の住民40人が、震災の年の秋に結成した。みんなで大きな声で歌い、仮設暮らしのストレスを発散しようと、隊長を務める金野ミエ子(69)らが呼びかけた。
2013年1月、「NHKのど自慢」が大船渡に来た時、ゲスト歌手は新沼だった。金野らも予選会に臨んだが、落選した。翌日、仮設団地を新沼が訪ね、「合唱の伴奏に使って」と、電子キーボードを寄付してくれた。金野自身は昨年6月に自宅を再建した。だが、仮設団地から「全員卒業」するまで活動を続けるつもりだ。「私たちを励ましてくれた歌で今度はだれかを励ます。この歌を歌えることに感謝しています」。「ふるさとは今もかわらず」は欠かせないレパートリーだ。
新沼は12年11月、母校の大船渡市立第一中でこの歌を生徒と歌った。生徒もコーラスに参加したCDが同月に発売されると、大きな反響を呼んだ。テレビの歌番組では観客から拍手が鳴りやまなかった。所属するレコード会社の日本コロンビアには、全国から「合唱で歌いたい」と譜面の注文が相次いだ。
同社は13年7月、オーケストラや合唱団と再録音し、シングルとして譜面を付けて再発売した。ヒットチャートでは初登場25位を記録。新沼にとって36年2ヵ月ぶりのトップ30入りとなった。新沼は被災地を巡るコンサートでは、必ずこの歌を歌う。被災した人たちを励まそうという思いもあるが、それだけではない。
被災地では、大切な人をなくしているのに、みんな一生懸命生きている。つらいのは、妻をがんで亡くした俺だけじゃない。人生に別れはつきものなんだから、死んだ人の分まで生きよう。みんなも、俺も。「歌の力」とは、こういうことなんだろうか。この歌をつくり、歌えたことで、本当の意味での歌手になれた。新沼は、そう思う。(斎藤徹)

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