9月23日 人生の贈りもの 作家 浅田次郎【1】

朝日新聞2017年9月18日33面:直木賞、取れると思っていた 『鉄道員』(ぽっぽや)で取れると思っていましたね、直木賞。当時は時間があったから候補作を全部読んで、根拠はないけど落ちないだろうと。自信家じゃなくて、楽観的なの。何でもそうで、競馬に行く時も、このお金が無くなると思ってないもんね、何度無くなっても。競馬場に向かっている時は、ものすごく夢をみている。車買い替えちゃおうかなって。
後日談を聞いたら受賞は滑り込みだったらしいんだけど、でもね、短編集で直木賞を取ったのは、僕にとって幸せなことだったと思います。≪受賞前年の1996年、代表作の長編『蒼穹の昴』も直木賞候補だった。清朝末期の宦官と官僚を描き、帯には「この物語を書くために私は作家になった」とある≫
その時も自信満々。だけど鮮やかに落ちた。でも、振り返ってみると小説の神様っていると思うんだ。もし、『蒼穹の昴』で受賞していたら、同じような作品を書いてほしいという要請ばかりが来て、あの時なら受け入れてしまったでしょう。そうなったら、中国の役人の世界を書く異色作家みたいな判子を押されていたはずです。翌年の短編集が受賞作だったから、何でも書いていい作家になれた。それに1回落ちていなかったら、相当の慢心につながったんじゃないかと。
落選は悔しかったけれど、『蒼穹の昴』を書き上げたという方がはるかに嬉しかったな。無名に近い作家の異色の小説を多くの人が買ってくれました。文庫は初版100万部。ミリオンにはこだわりがあって、その本から読書を始める人が出てくる数と思っているから。とにかく読者が評価してくれた。作家冥利に尽きるのは賞ではないんです。(聞き手= 高津祐典=全15回)

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