9月21日 オトナになった女子たちへ 益田ミリ

朝日新聞2018年9月14日19面:スマホと青年と青い空 スマホを新機種に買い替えることにした。わたしはどんよりとした気持ちで店へ向かった。これから「機械」の話が始まるのかと思うと、もう泣けてきそう・・。苦手なのである。しかし、そうも言っていられない。今使っている機種が古すぎて、パソコンから転送されるファイルが開けないことも多くなった。8年近く使っているのだから、そりゃそうなるだろう。
日中は客が少ないはずだと出かけていけば、店内はそこそこ混んでいた。「いらっしゃいませ」若い男性店員に誘導されて席に着く。どうやらこの青年が、わたしの担当のようだ。まずは、ごめん、と思う。機械音痴のせいで、辟易させてしまうはずである。と、心で謝りつつのお買い物だ。
青年はていねいに質問に答えてくれら上、途中、趣味のダンスの話までしてくれた。「クルクルまわるやつでしょ? ケガ、気をつけてね」彼の身を案じつつ、今日からすぐに使える設定までやってもらえるかを確認し、どれにするのか決定した。「僕も同じの使っています」青年はポケットから自分のスマホを取り出した。待ち受け画面に、友人たちとはしゃいでいる写真が見えた。青い空だ。海にでも行ったのだろうか。
「お、楽しそうだね」わたしが言うと、彼は照れくさそうに笑った。毎日、店と家の往復だけですよ。彼がちらっと漏らしたさみしげな言葉が胸に残っていた。だから、待ち受けの写真を見て少しほっとする。働くのが、大人であるのがつまらないと思う夜もあるだろう。ちょっと前まで学生だったのである。
お礼を言って店を出た。買えた。新しいスマホ。ピカピカだ。そしてペラペラだ。こんな薄っぺらなもので電話ができることを、時々はちゃんとびっくりしよう! と、謎めいた誓いをたてる。翌日、店の前を通ると定休日だった。今頃、クルクルまわっているのかな? と思いながら自転車で通り過ぎた。(イラストレーター)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る