9月19日てんでんこ 音楽の力【18】

朝日新聞2017年9月14日3面:「岩手は特別」。坂田明のフリージャズは浜のばあちゃんの気性と波長が合う。 ジャズミュージシャンの坂田明(72)にとって、岩手との出会いは三十数年前にさかのぼる。山下洋輔トリオから独立して最初のツアーをした1980年以降、2年に1度の東日本ツアーの際は、必ず大槌町の「クイーン」や一関市の「ベイシー」など、県内の老舗ジャズ喫茶やライブハウスを回っている。
「東北の中でも岩手は特別じゃ」と坂田。何がそこまで彼を惹きつけるのか。「大槌みたいな漁師町でライブやるとね、80歳ぐらいのばあちゃんが最前列で身体揺らして聴いてくれている。人の濃さが違うんだ。みんなシャイで無口だけど言いたいことはいっぱい持っている。でも親しくなってもうるさくない。その距離感が、またいいんだな」
そんな「惚れた土地」を歩いていた坂田が、突然路上に寝転がって天を仰ぐこともあった。詩人の故・奥成達は「坂田は存在そのものが非常識」と評した。「非常識」を武器に闘う坂田は「僕は音楽を目的にはしていない。目的は人間だ。サックスなんてどう吹いてもいい。向かうところ客なし」という。
しかし、クイーン店主の佐々木賢一(75)は「80年代から坂田のライブなんかを企画と、県都の盛岡より釜石や大槌の方がなぜか客入りがよかった」。ふだん民謡や演歌を聴いている浜のおばちゃたちが、率先してチケットをさばいてくれるのだ。
その一人に音楽好きの華道家、菅原昌子(91)がいる。自宅は津波で流され、避難先の盛岡市内で昨年末、転倒して骨折した。今は介護施設でくらす。
「坂田さん? 覚えているよ。うれしかったねえ。あんな田舎まで来てくれて。もう一度、聞きたいねえ」 佐々木は「とんがった坂田のフリージャズが、浜野ばあちゃんのモダンな気性に、不思議と波長が合ったんだな。すっかり楽しんで、『いい冥途の土産ができた』なんて喜んで帰っていったこともあったよ」という。大槌町で長年保健師をつとめ、昌子をよく知る岩手看護短大教授の鈴木るり子(68)もまた。津波で自宅と親族7人を失った。「昌子さんを車いすに乗せてでも大槌に連れて行き、故郷の星降る夜空の下で、もう一度聴かせてあげたい」と願っている。「昌子さんにとって、それが生きる証しになるのなら」(本田雅和)

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