9月16日 私の東京物語 西郷輝彦

東京新聞2018年9月11日28面:順風満帆な日々に陰り 今のうちに家を買っといた方がいいと父が良い、玄人はだしの占いで方位を決めると三鷹の東京天文台の近くに土地を買って家を建てた。東京都とは言え、当時はタヌキが出るような田園地帯で、天文台内に入ると昼なお暗く、深く茂る樹木に圧倒される。仕事にもやっとゆとりができた頃、母とよく散歩したものだ。「星のフラメンコ」をはじめ多くのヒット曲にも恵まれて日々順調だった。仕事帰りの楽しみは六本木。初めて東京へ来た頃の六本木はまだ高速3号線もなく、店はピザの「ニコラス」、イタリアンの「キャンティ」「シシリア」や外国人が多いバー「ガスライト」が点在する程度で、若い人には信じられないだろうが、それは静かな住宅街だったのだ。
六本木交差点のアマンドを斜めに下りていくと右手に地味な店構えの小さなステーキハウスがある。そのころ三日にあげず通った「徳大寺」だ。いまだに思う、あの店以上の肉にはお目にかかれていない。さて御三家などとはやし立てられた私のアイドル時代も、新たなミュージックシーンのうねりに飲まれ、方向感覚を失うほどに打ちのめされる時がやって来る。紅白にも10回も出場しながら、歌うヒット曲がない屈辱。そして若さゆえの思い上がりもあったのだろうか。自分の周りから、まるで潮が引くように、静かに足音もなく人々が去って行くのを感じた。(歌手、俳優)

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