9月11日 小さないのち みんなで守る【4】

朝日新聞2017年9月7日35面:家族になろう不安があっても ダウン症のみいちゃんと縁組 「寝る前に『みいちゃん、かわいいなぁ』って言うんです」奈良県橿原市の自宅で、樋口藍子さん(32)が、長男の一絆(いっき)君(3)と生後10カ月の心絆(みいな)ちゃんを見てほほえむ。心絆ちゃんはダウン症で成長はゆっくりだが、最近は笑顔が増えてきた。藍子さんいわく「我が家の癒し系アイドル」だ。
藍子さんと夫の裕勇(ひろとし)さん(35)が結婚したのは2010年。なかなか子どもを授からず、検査を受けたところ、裕勇さんが無精子症だと分かった。「何も手につかなかった。一生子どもを抱くこともないんかな、と思った」と振り返る。傷害のある子が生まれる可能性についても夫婦で話し合い。不妊治療に取り組んだ。でも、妊娠には至らなかった。
夫婦2人でもいいかな、とも考えたが、諦めきれない思いがあり、特別養子縁組を仲介している民間団体に登録。障害児も積極的に縁組しているNPOで、障害のある子と縁組する可能性についても説明を受けた。裕勇さんは悩みつつも「僕のところに来てくれる子どもやったら、どんな障害があっても僕の子や」と藍子さんに伝えた。14年、生後まもない一絆君を養子に迎えた。実母とも心でつながっていたいと、名前には「絆」の文字を入れた。「天使が舞い降りたみたい。人生がバラ色に変わった」と裕勇さんはいう。
それから2年。一絆君にきょうだいをと考えていたところ、団体から「ダウン症のお子さんを受け入れてくれますか」と聞かれた。藍子さんは「もちろんです」迷いなく答えた。ただ、裕勇さんには不安もあったという。小学校の時、ダウン症の同級生がいじめに遭い、母親が泣いている姿を見た。裕勇さんの母親からも「苦労するのではないか」と、考え直すよう言われた。
不安が消えたわけではなかったが、話し合いを重ね、気持ちを固めた。同じ団体を通じて縁組をし、友人になった家族からは「みんなで育てよう。みんな家族やで」と声をかけられた。昨年末、生後2ヵ月の女の子を迎えた。今では、裕勇さんの両親もずっと抱っこをして、かわいがってくれる。現在、裁判所に縁組を申し立て中だ。
筋力が弱い心絆ちゃんは舌をだしていることがある。藍子さんは「ペコちゃんみたいでかわいい」と思っていたが、近所の小学生たちがまねをして笑ったことがあった。「笑われることなん?」とショックだった。障害のある人と出会う機会が少ないからでは、と思う。心絆ちゃんがどんどん外に出て、いろんな子がいることをみんなに知ってもらいたいと考えている。将来、心絆ちゃんがつらいことに直面したら、こう話すつもりだ。「まわりを見てみたら、支えてくれている人がいっぱいいるんやで。それは幸せであたたかいことなんやで」
障害児 引き受け先少なく 10年前から親が育てられない子を匿名で受け入れている慈恵病院(熊本市)の「こうのとりのゆりかご」では、2016年3月末までに預けられた125人のうち、少なくとも11人に何らかの障害があった。蓮田健副院長は「障害を受け入れられない、自分に育てられるのか、などと苦しむ母親からの電話相談は多い。一方、障害児の引き受け家庭はほとんどないことも現実だ」と話す。
児童相談所のある自治体への朝日新聞のアンケートでは、14~16年度に障害児の特別養子縁組を成立させたのは、69自治体のうち21にとどまった。「障害を持つ児童は、どうしても里親委託につながりにくい」と答えた自治体もあった。
3年間とも障害児の縁組件数がゼロだった関東地方の自治体の担当者は「障害の有無を見極めた上で里親委託をしている」。妊娠中に薬物依存や喫煙などがあった場合は子どもに障害が出るリスクが高くなるため、2~3歳まで縁組を見合わせることもあるという。
そうした結果、障害のある子は施設で育てられることが多くなる。国の「里親委託ガイドライン」は、「障害の有無が明らかになる年齢を待ってから、里親委託緒検討する考え方もあるが、心身の発達にともなって大切な新生児の時期から里親委託を検討することが重要」としいる。
日本女子大の林浩康教授(社会福祉学)は「(障害の有無を)見極めるといってもキリがなく、(家庭で暮らす)機会を逃してしまうこともある。児童福祉法に明記された『家庭で育つ』権利をいかに具体化していくことが重要」と話す。林教授が昨年視察した米国では、障害児が家庭で暮らすことを支援する機関があり、医師やソーシャルワーカーらがチームをつくって子どもに専門的ケアを提供するなど、障害児を育てる家庭への支援体制が整っていたという。「育ての親に養育を丸投げするのではなく、委託期間が責任をもって親と一緒にケアを担う体制が必要」と指摘する。(山本朱香、山田佳奈)


特別養子縁組 実父母が育てられない原則6歳未満の子どもと、子どもが欲しい別の夫婦が縁組し、戸籍上の親子になる制度。夫婦が家庭裁判所に申し立て、6ヵ月以上の試験養育期間後、家裁の審判で成立する。実父母は親権を失う。2015年までの10年間で3804件成立した。

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