9月10日てんでんこ 音楽の力【13】

朝日新聞2017年9月7日3面:「後悔したくない」。演奏で震災を伝えたいと曲を作った。 壊滅した岩手県大槌町の市街地を見下ろす丘で、大槌高校吹奏楽部はジャズピアニスト、小曽根真を迎え、町にモデルとされる島がある「ひょっこりひょうたん島」のテーマ曲を演奏した。2011年8月のことだ。トランペット担当で部長の臺隆裕(だいたかひろ)(22)は小曽根の音に「プロは違う」と感嘆した。自分も同じ道に進もうとは思っていなかった。
自宅が流されて一時、内陸に避難した。「今、音楽をやるのはぜいたく」と楽器に手を触れなかったが、「部のメンバーと卒業したい」と両親より先に町に戻ってきた。6月に町の復興支援イベントで演奏した。音楽室で練習をしていると、避難所だった体育館の被災者から「うるさい」と苦情が来て落ち込んだこともあった。だが、小曽根と演奏した日は老若男女が泣きながら聴き、握手攻めにあった。「音楽の力」を知った臺は演奏依頼を可能な限り受けた。卒業までに県内外で70回を超す公演をした。観客と一体感がたまらなかった。
それまでは経済的な理由もあり、進学せず、音楽関係の裏方の仕事に就きたいと考えていた。しかし、「音楽で、震災を伝え続けたい」という気持ちが日増しに強くなった。最も心を揺さぶったのは、津波で行方不明の先輩が震災前に書いた「7年後の自分」への手紙を授業で読んだ時だった。「夢は叶えたか?」と、将来を思い描いていた。
「夢を叶えられなかった人がいる。自分は後悔しない生き方がしたい」。臺はプロを目指す。東京の音楽専門学校のテストに特待生として合格し、2年間勉強した。ただ、臺は震災と正面から向き合えないでいた。市街地が壊滅した光景が頭に浮かぶと演奏できなくなり、テレビから流れる津波の映像を制止できなかった。
震災を表現した曲を作りたいと思っていたが、頭の中で想像してもうまくまとまらない。専門学校卒業後、意を決して津波の動画を見た。耐えきれず途中で止め、思い直して先へ、と少しずつ進め、最後まで見た。
こうして作った3曲を友人5人と演奏した。16年6月、グループ「TSUCHIOTO」のデビューCDとして出す。被災者の前向き、後ろ向きの感情を音にした。「後悔したくない」と思ったのは、臺の父、隆明(55)も同じだった。(東野真和)

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