9月10日 小さないのち みんなで守る【3】

朝日新聞2017年9月6日33面:妊娠 学校に言えぬまま 4ヵ所で診察拒まれ途方に 関西に住む高校3年生の少女(18)は、2年生だった今春、学校に隠し通したまま女の子を出産した。趣味を通じて知り合い、交際していた20代の会社員男性と分れ話をしようと昨年、一人暮らしの男性を訪ねた。セックスの経験はなく、このとき無理やり関係を持たされた。以来、男性とは会っていない。
雅俗でスーパー銭湯に行った昨秋。母親は、少女のおなかがふっくらしているのに気づいた。「大丈夫?妊娠したんじゃないよね」と声をかけたが、少女は「していない」と言って、黙り込んだ。もともと生理不順で、何カ月も生理がないとこがあった。一度きりで、まさか妊娠したとはおもっていなかった。
「もしものとき、中絶には期限があるから、一生のことだから病院に行こう」。母親が説得し、学校帰りに女性医師の診療所を2人で訪ねた。とても寒い日の夕方だった。診察時間の前で、まだ開いていない診療所の玄関わきで待った。少女は母親のてを握った。目はうっすら涙が浮かんでいた。「一緒に乗り切ろうね」。
母親は手を握り返した。検査結果は妊娠6カ月。法律上、中絶できる時期を10日ほど過ぎていた。少女はモニターに映る赤ちゃんをじっと見つめた。産みたいという気持ちがわいた。だが医師の言葉は冷たかった。「高校生なのに妊娠するなんて遊び回ってたんやろ。検診を受けていない人はここでは産めないよ」
ほかを捜したが、「こんな時期まで放っておく人は診られない」「医師が少ないの受けいれられない」など次々と断れた。途方に暮れたが、学校に通報されるのが怖くて行政には相談できなかった。
5カ所目。診療所の医師がようやく「NICU(新生児集中治療室)などの設備が整っている方がいい」と、病院を紹介してくれた。検診を受けることを条件に出産できることになった。市役所に母子手帳をもらいに行くと、保健師から「学校には言わないから安心して」と声をかけらた。少女には大学に進んで教師になる夢がある。高校でテストの順位はいつも学年で1桁。男女交際や外泊は禁止と指導され、過去に生徒が妊娠して退学になったうわさも聞いた。学校には絶対に知られてはいけないと、上着などでおなかを隠して登校した。予定日が近づくと「体調が悪い」としばらく休んだ。それでも学年末の定期テストは受けに行った。かなり大きくなっていたおなかはカーディガンで必死に隠した。順位は落とさなかった。
春休みに入る直前、3300グラムの女の子が生まれた。「しっかり名前、考えてあげて」と母親に声をかけられ、「かけがえのない子」という気持ちを込めた。今、娘は生後半年。日中は自営業で働く母親と近くに住む祖母が世話をし、学校から帰ったら小女がみる。ベビーベッドは勉強部屋に置いた。「まだ学生なので育てられない。母に迷惑をかけてしまう」と思い、少女は娘を養子に出さざるを得ないと考えてきた。でも自分が抱っこすると安心した顔をする姿を見ていると、気持ちが揺れてくる。(山田佳奈)


教育から「排除」された 訴え次々 厚生労働省の統計では、2015年に10代で出産した女性は1万1929人いた。うち14歳以下は39人だった。10代での人工中絶は1万6113人(15年度)いて、うち270人が14歳以下だった。
文部科学省は「妊娠や出産で停学・退学となる校則がある高校はほとんどないと思う」(児童生徒課)と話す。生徒が妊娠したときの対応については「勉強を続けたい、復学したいなどの生徒の意向を聞き、保護者も交えて相談していくことになる」と説明する。
だが現実には、妊娠を機に高校を退学になったなど、教育の場から「排除」されたという声が、各地の妊娠相談窓口などに寄せられている。西日本の病院のケースワーカーには「大きなおなかが同級生の目に触れないようにと、卒業までの数ヵ月間、自宅待機させられた」と中学生から相談があったという。
岩手県のある県立高校には以前、妊娠すると退学処分になる規定があった。県教委によると、妊娠を「問題行動」ととらえる考え方は不適切だとして、15年に削除されたという。一方、相手の男性が生徒だとしても、男性側の学業にはほぼ影響しない現実もある。
文科省が毎年発表している高校の退学者数やその理由についての調査には、「妊娠」の項目はなく、実態は把握されていない。若年出産の問題に詳しい種部恭子医師は「今の子どもたちは『命を大切に』という教育は受けているが、性の知識が不足している」と性教育の大切さを訴える。種部氏は開業する富山県内の中学校に出向いて講演し、一回の性交でも妊娠する可能性があることや、コンドームなどリスクを避ける具体的な方法を伝えている。
その上で、妊娠したケースについて「女子生徒ひとりが責任を負わされている。子どもたちの状況や気持ちを理解し、教育や就労を含めて支えていくことが必要」と指摘。相談に乗る医師を地域ごとに認定し、子どもが独りで問題を抱えて込まない仕組みづくりを提案する。(山田佳奈)


海外では学業支援も 海外では、若年での妊娠・出産が相次ぐ現実を受けて、学業を続けられるよう支援する取り組みがある。米コロラド州にあるフローレンス・クリテントン高校は、主に州内から集まる生徒が全員、母親か妊婦という公立高校だ。
同校によると生徒220人のうち75%が母親、25%が妊婦。校内には託児所があり、子どもを預けて授業を受けられる。シングルマザーのクラリサ・ベイルさん(18)は3歳の娘と通う。薬物中毒に苦しんでいた14歳の時に妊娠。いったん高校を中退したが、ネットでクリテントン高校のことを知った。歴史の授業が好きで、クロスカントリーのクラブ活動にも励む。
「大学に進みたい。娘のためにもキャリアを積みたい」と話す。韓国にも、出産した10代への支援策がある。埼玉県立大の美恩和講師によると、未婚の母のための母子支援施設が約20カ所ある。うち9カ所では教育や職業訓練を引き続き受けられ、在籍していた高校の卒業証書がもらえるという(木村健一)

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