8月9日てんでんこ 九州と豪雨「15」なりわい

朝日新聞2018年8月4日3面:「柿畑は、人生かけてつくってきた作品。諦められん」 救出された自衛隊のヘリコプターから見下ろした山里には、土砂崩れの爪痕が幾筋も刻まれていた。2017年7月5日の九州北部豪雨から2日後、福岡県朝倉市杷木松末の石詰地区で暮らしていた小ノ上喜三(69)は思った。「もう柿づくりは無理かもしれんばい」。朝倉市は、甘柿生産量全国1.2位を争う福岡県の主力産地だ。自称、日本一の甘柿農家。早世した父から柿やスモモの畑約1㌶を受け継ぎ、その後は自ら重機を操って開墾し、10㌶まで広げた。研究熱心で、収穫量を上げる剪定法を紹介する本まで出版した。市場に頼らない値売路線も当たった。年間100㌧超の収穫で、売り上げは約5千万円になっていた。
そこに豪雨が襲った。集落を流れる乙石川が氾濫し、暮らしていた18世帯59人のうち5人が亡くなった。小ノ上は家族を含めてけがはなかったが、自宅は全壊し、柿畑に延びる道路や橋が流失した。収穫に欠かせない高所作業車や草刈り機など9台と、トラック4台が土砂に埋もれるなどして使えなくなった。「畑は人生をかけつくってきた俺の作品。とても諦められん」 奇跡的に、自宅そばの選果施設は残った。柿畑も一部は土砂崩れに巻き込まれたが、大部分は無事だった。自ら川を渡る道をつくり、柿畑までの道路を復旧した。昨年中には柿の出荷を再開し、新たに約400万円を借金して農機具を買い直した。
農機具の購入には公的な補助金が出たが、柿畑への道路の復旧費用は個人の営利事業につながるとしてほとんで補助金は出なかった。「私欲ではなく、山で暮らせるような補助の仕方はあってもよかじゃないですか」。なりわいを取り戻して経済的に自立ができなければ、山間部の集落は先細りしていくだけだ。小ノ上は現在、朝倉市に隣接する福岡県うきは市のみなし仮設から畑に通う。「俺にとっては、恵みをもたらしてくれるお天道さんだけが信じられる。もうあんな豪雨はこないと思っていないと、やっておられん」集落は今年5月、被災者生活再建支援法に基づく「長期避難世帯」を申請することに合意した。二次被害を避けるための対策工事が終わるまで、住むことはできない。工事は少なくとも数年はかかる。 (竹野内崇宏)

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