8月3日 負動産時代 サブリースリスク 【下】

朝日新聞2018年7月28日7面:「実需」を軽視 建築ラッシュ 規制緩和 農地にアパート 埼玉県羽生市の中心部から車で15分ほどの田園地帯に、似たような外観の賃貸アパートが立ち並ぶ一角がある。そのうち5棟を建てたオーナーの男性(67)は「建てる必要のないところに建ててしまったのではないか」と不安を漏らす。もともと畑だったが、賃貸住宅建設大手の大東建託に勧められ、2005年以降に約3億円の借金をしてアパートを建てた。アパート大東建託が丸ごと借り上げ、家賃も大東から一括してオーナーに支払われるサブリース契約を結んだ。契約期間は30年。築10年後に家賃の見直しがあるとは説明を受けていたが、男性は大東の営業社員から「物価が上がる」と聞いたと記憶している。だが、市内に似たような賃貸アパートが続々と建つのを見て、男性は不安になった。不安は的中し、築10年で大東から家賃の約1割の引き下げを求められた。銀行と交渉して金利を下げてもらってしのいでいるが、大規模修繕など使いの出費が心配で、家賃収入の多くを貯蓄に回しているという。羽生市で賃貸アパート建設を後押ししたのが規制緩和だ。男性が土地を持っていた一帯は市街化調整区域。農地などに土地利用が限定され、アパート建築などは原則認められなかったが、00年の都市計画法改正を機に、自治体が条例で定めれば市街化調整区域にアパートを建てられるようになった。羽生市でも03年、調整区域の多くでアパートを建てられるようになった。
だが、もともと住宅が建つことを想定しない地域で、道路や下水整備などに多額のコストが生じた。一方、人口の流入が期待されたもの、羽生市の17年3月の人口は03年に比べ2千人以上減った。市の中心部がかえってさびれる恐れや、空き家が増えすぎる懸念も強まったとして、市は「再規制」にかじを切ることにした。14年、市街化調整区域にアパートを建てられなくする条例改正案を提出。市議会では、羽生市外への人口流出の懸念も強く、委員会採決は賛否同数。最後は委員長の賛成で可決された。
「再規制」の動きも 00年以降、市街化調整区域の規制緩和に踏み切る自治体が相次いだ。国土交通省によると、規制緩和に必要な条例がある自治体は15年度末で166にのぼる。住宅を建てて人口を増やしたい自治体、農地を有効活用したい農家、物件で稼ぎたい業者の思惑が一致し、そこに住みたいひとがどれほどいるかという「実儒」を無視した建築ラッシュが起きた。だがその後は、インフラ整備のための負担や空き家増など、乱開発の弊害も目立つようになり、羽生市を含む一部の自治体は「再規制」に転じた。国交省が確認しただけで埼玉県川越市、千葉県佐倉市、堺市が、規制緩和の条例を廃止した。12年に条例を廃止した堺市は、一部の道路で渋滞が起きたり、住宅が建って農地の日当たりが悪くなったり、においの苦情が増えたりしたことを理由に挙げる。
埼玉県久喜市は17年1月、条例は残しつつも、賃貸住宅の建設を抑制する方向で規制を強化した。調整区域に建てられる住宅は、賃貸向けを除く居住用一戸建てに限定した。人口減の日本で調整区域の規制緩和をすると、道路や下水道などのインフラが整った市街化区域から、未整備の調整区域に人口が移る結果になる心配がある。サブリースは、これを加速させる仕組みといえる。羽生市の問題を調査するなど、都市計画に詳しい東洋大建築学科の野澤千絵教授は「建物があると相続税が下がる相続税対策が目的なので、空き部家が問題になりにくい。『焼き畑農業』のような宅地開発を生む原因になっている」と指摘している。
(北川慧一、松浦新)
 地銀8割「個人オーナーへの融資」残高増 賃貸住宅向け融資の実態について、朝日新聞が全国の地方銀行にアンケートしたところ、全体の8割が、5年前に比べて「個人の賃貸業向け」融資残高が増えたと回答した。2017年度は、過半の地銀が賃貸向けの新規融資を前年度より減らした。賃貸住宅の供給過剰や賃貸下落の懸念が高まっているようだ。調査は今月、国内地銀104行に書面で聞き、90行が回答した。90行の約8割にあたる71行は、個人がオーナーとなる賃貸物件向けの18年3月末の融資残高が、日本銀行が大規模金融緩和に踏み切る直前の13年3月末に比べて「増えた」と回答した。
個人の賃貸アパートなどを業者が一括で借り上げる「サブリース契約」が、融資した賃貸物件に占める割合も聞きた。サブリースが5割以上を占めると回答した地銀は18行、2~5割が26行、2割未満が8行、「わからない・未回答」が38行だった。将来の貸し倒れリスクの懸念については約3割の28行が「ある」、31行が「ない」と回答。「わからない」が23行だった。懸念があるとした地銀の多くは、融資物件の「空室率の上昇」や「家賃の低下」を理由に挙げた。
(藤田知也、柴田秀並)

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