8月18日 物流悲鳴 担い手置き去り

朝日新聞2018年8月12日4面:規制緩和で参入続々過当競争 運送業界の平成を振り返ると、規制緩和の功罪が浮き彫りになる。相次ぐ新規参入で運賃は下がり、インターネット通販も身近になったが、運転手は長時間労働と低賃金に苦しみ、なり手不足に陥った。物流のインフラのいまを通じて、産業のあり方を考える。
「3日行程」の長時間労働 国内各地が大雨に見舞われた7月5日夜、静岡県御殿場市の東名高速道路・足柄サービスエリア(SA)に大型トラックが集まってきた。香川、和歌山、京都・・。西日本のナンバーをつけたトラックは駐車場に入りきらず、加速車線にもあふれた。「あと3時間。少し横になるか」。兵庫県姫路市から化学製品を運んできた男性運転手(50)は夜8時過ぎ、運転席後部にあ仮眠ベッドに潜り込んだ。肩幅ほどの狭さで、寝返りも打てない。「まるで棺おけで横になる感じ」 東京料金所手前にあるSAで運転手たちが時間をつぶすのは、午前0時以降に高速を出るとETC(自動料金収受システム)の深夜割引を受けられるからだ。長距離のトラックのハンドルを握ったのは21歳、平成に入る1年前だった。当時、姫路ー東京間の運賃は12万円ほど。1990年の「物流2法」の施行で規制が緩和されると、中小零細業者が多く参入した。安値受注による値引き競争が進み、運賃は約7万円に下がった。
男性がSAで待つことで、姫路から東京までの高速料金約2万円の3割、約6千円が浮く。「会社側から『できるだけ安く走ってくれ』と頼まれれば、こうして待つしかない」男性はこの日、朝8時に出勤し、地元の取引先の工場で荷物を積んで出発した。足柄SAで仮眠をとった後で高速を出て、翌未明に関東地方の工場に就いた。8時間以上続けて休息をとることが法令で義務づけられるが、この日休めたのはSAでの4時間ほどだ。工場の門が開くのを待って荷下ろし、別の工場で帰りの荷物を積んだ。夜はまた滋賀県内のSAなどで待機し、翌午前0時過ぎに高速を降りた。荷物を届けた後、解放されたのは3日目の午後5時だった。
「3日行程」。大都市間を往復する基幹輸送を担う長距離運転手の仕事はこういわれる。長距離運転でただでさえ拘束される運転手を、荷下ろしやSAなどで待たせる働き方が、長時間労働に拍車をかけている。先の通常国会で成立した働き方改革関連法に盛り込まれた残業上限規制が、運送業に適用されるのは2024年。「そのときは3日行程は成り立たない。残業が減り、いまもギリギリの収入が減れば、長距離運転手のなり手はますますいなくなる」と男性は思う。
増える通販 足りぬ人手 ネット通販などで、届け先の玄関先まで商品を運ぶ宅配便の運転手たちも苦しんでいる。「何で休憩時間が30分なんだ」。今春、神奈川県内のヤマト運輸の営業所でセールスドライバー(SD)をする40代の男性に、上司から電話がかかってきた。前日昼の休憩を「30分」と申告していた。「ほかの人に仕事を押しつけてでも1時間とれ」と上司。だが、「同僚に押しつけたらチームワークが崩れる。結局みんな1時間とったことにしている」と男性は明かす。宅配便最大手ヤマトは、ネット通販による荷物量の急増と、慢性的な人手不足で違法な長時間労働が常態化し、働き方改革に乗り出した。男性の勤める営業所では今年3月、残業時間を「昨年より月平均10時間削れ」と指示が飛んだ。
「でも仕事の量はまったく変わらない。削れといわれている10時間分は申告せず、サービス残業をして何とかこなしている」残業代は減り、月収は2万円ほど下がった。以前はコンビニ弁当だったお昼はカップ麺などで済ませる。「働き方改革は外向けのアピールに過ぎない」。失望した男性は年内で、ヤマトを辞めるつもりだ。「米アマゾンの荷物を本格的に配り始めた13年を境に、サービス残業がめっちゃ増えた」。16年秋にヤマトを退職した元SDの男性(40)の実感だ。
横浜市の営業所に朝7時過ぎに出勤し、自宅に戻るのは夜11時。午前0時近くになることも多かった。配達を夜に指定する荷物が増えたからだ。「アマゾンが来る前、15個ほどの夜便が最高80個の夜もあった」男性は心身ともに限界に達し、16年勤めたヤマトを辞めた。直後に未払い残業代を求め、元同僚と横浜地裁に労働審判を起こし、調停が成立した。「宅配便は働き手を犠牲にして成り立っている。労働者に優しい『ホワイト企業』になるなら、よほど人を増やさないとムリだ」
 輸送手段の確保 社会の課題 平成の初め、規制緩和で新規参入が進んだ運送業界をバブル崩壊が直撃した。長引く景気低迷で過当競争に突入し、ここ数年は人手不足や業績悪化で業者数は微減傾向にある。多くの荷主は、輸送手段の確保という課題に直面する。物流費の上昇などを理由に今春、業務用の瓶ビールなどを値上げしたビール大手。お歳暮商戦の年末などは、他の業界とトラックの奪い合いになっている。
キリンビールが同業他社と共同配送を始めたのは7年前。当時はコスト削減のためムダを削るのが目的だった。しかしいま、メーカーにとって「物流網は消費者に製品を届けるライフライン」(キリンの物流担当者)。鉄道も使って、その持続可能性を探る。27年にトラック運転手は24万人足りなくなるー。ボストン・コンサルティング・グループの森田章ぱーートナーの予測だ。17年の運転手数は83万人。宅配便は増え続け、10年後には96万人が必要になる。一方、高齢者の引退などで担い手は72万人にとどまる。「幹線道路での自動運転化に加え、異業種の共同配送なども進める必要がある」と森田氏は訴える。
国土交通省などは自動運転技術を使い、複数のトラックを運転手1人で走らせる「隊列走行」の実験を始めた。日立物流は、運転手や倉庫作業員の代わりに荷を積み下ろしするロボットの開発などに取り組む。しかし、何より大切なのは働き手の待遇改善だ。大型トラック運転手の昨年の年間所得は454万円で全産業平均より1割安い。労働時間も2604時間と1.2倍になっている。神奈川大の斉藤実教授は「運送業者は、過当競争で抑えられてきた運転手の賃金を上げることが急務だ。運賃の上昇は待遇改善のきっかけになる。荷主や消費者はこのことを理解する必要がある」と指摘する。置き去りにされてきた働き手をどう支えるのか。社会全体で考える時期にきている。 (編集委員・堀篭俊材)

 

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る