8月1日てんでんこ 九州と豪雨「9」奇跡

朝日新聞2018年7月27日3面:古民家はほぼ無傷で残った。「ここにいれば、みんなと話ができる」 ≪真後ろの風景と真反対にたたずむこの奇跡に、私達は再びの復旧を願います≫ 大分県日田市小野の梛野地区で3月にオープンした古民家カフェ「谷のくまちゃん家」。扉にはメッセージが貼り出されていた。
2017年7月の九州北部豪雨の際、すぐ近くで大規模な土砂崩れが起きた。すさまじさを物語る光景が店の庭木越しに見える。だが、築84年の店の建物はほぼ無傷だった。貼り紙を見たマスコミが開店前から「奇跡の民家カフェ」と報じ、名が広まった。メッセージを書いたのは、地域おこし団体「すずれ元気村」のメンバー、伊藤元裕(66)。12年の九州北部豪雨の後、地域活性化を目指してカフェ運営を思い立ち、有志13人で古民家の改装に取り組んだ。
当初のオープン予定は17年7月7日。その2日前に豪雨が襲った。幸い土砂崩れに巻き込まれず、ガラス1枚が割れただけだった。店を開けるのは金~日曜日限定。メニューは郷土料理「あぶらげ」やコーヒーなど。噂を聞きつけ、18年3月の開店から2ヵ月ほどは連日40人ほどがやってきた。5月には人気漫画「進撃の巨人」の作者、諌山創(31)が訪れた。諌山は日田市の出身。作品の主人公らが壁に囲まれた街で暮らすという設定は、山に囲まれた故郷がモチーフ。
被災時の話に耳を傾け、漫画のイラストを残していった。後の取材に「すごくショックでしたが、カフェには歴史的な価値を感じた」と話した。営業が終わると、運営する住民どうしで縁側に座り、雑談する。1本170円のラムネを置いたのは、地元の高齢者らが気軽に来られるようにという心配りから。収穫したタマネギを店に持ち込んでくれる人もいる。17年11月から1ヵ月ほど仮オープンした際、集落を離れた住民たちが久しぶりに顔を合わせた。主に接客を担当する石井幹夫(68)は「ここにいれば集落のみんなと話ができる。店が残って本当によかった」。自宅が全壊して市中心部から通うが、仕込みや庭の手入れで、週の半分以上は集落で過ごす。豪雨後に始めた集落単位の避難計画づくりや避難訓練は、伊藤と石井の雑談がきっかけだった。「立ち寄って話せる場が残ったことが、奇跡に近い気がしている」と伊藤。店は集落の復興の支えになっている。 (興野優平)

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