8日 肺炎 積極治療しない選択も

朝日新聞2017年7月5日23面:高齢者の肺炎は、抗菌薬などを積極的には使わない「治療しない選択肢」もあり得るー。日本呼吸器学会がこの春にまとめた診療ガイドラインで、そんな方向性が示された。高齢者の肺炎は、若い世代の肺炎とどう違うのか。どんな人に治療しない選択肢があり得るのか。
薬控え生活の質優先 「胸の音、きれいですね」。東京都の小林佐知子さん(85)に聴診器をあてていた在宅訪問医でえびす英(ひで)クリニック(東京都渋谷区)院長の松尾英男さんがそう言うと、小林さんは笑顔を返した。11年前に脳出血を発症。昨年秋、口の中の細菌などが誤って肺に入って起こる「誤嚥性肺炎」をきっかけに、口から食べれなくなった。胃ろうで栄養を補い、のみ込む力をつけるリハビリを続け、好きなものを少しずつ、口にできるまで回復した。
「チューブにつながれるのはいやだ」と以前、話していた。同居する長女(59)は「もし、もっと重い肺炎になることがあったら、本人が少しでも楽でいられるような治療を考えてほしい」と話す。細菌などがもとで発熱や呼吸困難などをもたらす肺炎は、がん、心臓病に続く日本人の死因の3位。亡くなるのはほとんどが高齢者だ。細菌をやっける抗菌薬を使うのが代表的な治療法になる。
日本呼吸器学会のガイドラインは、終末期や老衰で死期が近い、または誤嚥性肺炎を繰り返すような患者に関して、生活・生命の質(QOL)を損ねる恐れがある場合は、本人や家族の意思を十分確認したうえで、QOL重視の観点から抗菌薬使用の有無などを医療チームとして決めりことを推奨する。「治療しない選択肢」も含まれる。
若い人なら、原因となる菌を抗菌薬でたたけば完治が期待できる。でも、全身が衰えて誤嚥性肺炎を繰り返すような高齢者は「治療でいったん症状が収まっても完全には治りにくい。治療中に誤嚥を起こしてまた肺炎、ということもある」と、長崎大の迎寛教授(呼吸器内科)は話す。
肺炎の治療で最初に試みた抗菌薬が効かない場合、より幅広い種類の細菌に効くタイプに切り替えることがある。だが、倉敷中央病院(岡山県倉敷市)呼吸器内科の石田直主任部長は、患者の状態などによってはこうした切り替えを控えるケースが年に数度あると話す。効果があまり期待できず、腎障害などの副作用が強まる恐れがあるためだ。
介護施設で暮らし、肺炎を起こした認知症患者を対象に、治療による延命効果と患者の「快適さ」を調べた米国の研究がある。平均86歳の約200例を分析すると、抗菌薬で治療したほうが生存期間は長かった。だが「痛み、呼吸困難、うつ」といった指標で患者の快適さをみると、濃密な抗菌治療を受けた人ほど低い傾向だった。
老衰状態 苦痛を緩和 「治療しない選択」は、あくまで患者本人や家族の希望が第一だ。高齢だからといって、ただちに治療しないということにはならない。誤嚥性肺炎というと、のみ込みを誤ってゴホゴホとむせる姿を想像しがち。でも実際は、眠っているときなど本人も気付かないうちに、細菌が少しずつ肺に入って起こることが多い。誤嚥性肺炎を一度起こした程度なら、治療の対象になる。抗菌治療で高齢者のQOLがどこまで下がるのか、明確にはわかっていない。抗菌薬には副作用があるが、複数の医師は「多くの場合、それだけで患者を決定的に苦しめるほどではない」という。薬で症状が収まれば、肺炎による苦しさが和らぐ面もある。一方、老衰などで死が近づくと、肺炎のために呼吸状態が低下しても、さほど苦しさを感じず、眠るように亡くなることが少なくないという。
「そうした段階の人への積極的な治療は、自然と死に向かう道を無理に引き戻してしまう面がある」と、大阪大の朝野和典教授(感染制御学)は指摘する。
こんなときは、苦痛の緩和を優先して見守ることもあり得る。たとえば、呼吸が苦しそうなら管を挿入する人工呼吸器ではなく、鼻に入れるチューブやマスクで酸素を届ける。発熱でつらそうなら解熱剤、呼吸苦には少量のモルヒネを使うこともある。
守屋おさむクリニック(倉敷市)の守屋修院長は「直接の死因は肺炎だったとしても、それは老衰など、死に至る自然な経過のなかの最後の一場面であることも少なくない」と話す。
のみ込む力を/ワクチン推奨 高齢者の肺炎は、大部分が誤嚥性肺炎といわれる。重い状態になる前に、できるだけ防ぎたい。どんな細菌が誤嚥性肺炎の原因となるかははっきりしないが、口の中にいる場合が少なくないとされる。口腔ケアで菌を少なくすれば予防につながり、のみ込む力(嚥下機能)を鍛えることで、誤嚥のリスクを低くできる。
和光駅前クリニック(埼玉県和光市)の寺本信嗣医師によれば、枕やベッドで角度を調整して頭を少し起こすようにすることで、のみ込みがしやすくなって夜間の誤嚥を減らせるという。「角度がきついと床ずれを起こすおそれがあるので、あくまで無理のない程度で」と寺本さん。
一部の高血圧薬や抗血小板薬は、嚥下機能を改善する作用があるとされる。逆に、睡眠薬などは嚥下反射を抑える性質がある。肺炎球菌ワクチンは、誤嚥性肺炎を含めた肺炎の予防に効果的とされ、学会のガイドラインも高齢者の接種を強く推奨している。
高齢者の肺炎は発熱などの症状がはっきりと出にくい。だるい、食欲がないといった場合は要注意で、指先につける器具で血中の酸素レベルが低ければ、肺炎の可能性もあるという。(編集員・田村健二)

 

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