7月6日 身の丈にあうインフラとは

朝日新聞2018年7月1日4面:設備老朽化 人口減で収益悪化 人々の生活を支える水道。高度成長期につくられた設備の老朽化に加え、人口減による収益の悪化にも苦しむ。「命のインフラ」を次世代にどう引き継げばいいのか。下水道や道路、橋など、人口増加を前提にしてきた社会資本全体が、同じ課題に直面する。
水道料金 日本一高い別荘地 5月の大型連休にもかかわらず、カラマツ林に覆われた別荘地は閑散としていた。長野県千曲市の南西部にある樺平は、水道料金が日本一高い地域だ。「にっぽん・どまん中、信濃の展望台」。1970年代に分譲が始まった当時のパンフレットにある。東京ドーム4個分の約20㌶に231区画のz別荘地ができ、当初は1250人に使ってもらうため、総延長7.7㌔の水道管と配水池2ヵ所などを備える簡易水道が引かれた。
しかし、スキー場が撤退するなど近くのリゾート開発が頓挫。建築済みは今も18区画だけだ。空き地には土地所有者を記す札だけが立つ。簡易水道を使いのも8戸に過ぎない。水道事業はコストを原則、住民から集める料金でまかなう建前だが、簡易水道は国の補助金や市町村の一般会計からの繰入金で支えられる割合が高い。それでも利用者が少ない樺平では、料金は月10㌧で6535円と当初から3倍超に上がった。
利用する人口が5千人以下と小規模な簡易水道は人が減る過疎地に多く、利用人口が5千人を超える上水道よりさらに経営が厳しくなる。簡易水道の経営基盤の強化に向けて、政府は同じ市町村の上水道や簡易水道同士の統合を進める。千曲市も昨春、樺平を含む三つの簡易水道を市営の上水道に統合。しかし、料金は樺平だけ市営の料金(月10㌧=1383円)に合せず、据え置いた。「定住者のいない別荘地の水道を住民の負担で支えることは、理解を得られない」と市の担当者は話す。簡易水道がある自治体でつくる全国簡易水道協議会の若松五常事務局長は「統合して料金を統一すると、料金が上がる地域から不満が出るため、統合がなかなか進まない」と語る。週1回ペースで、妻と別荘を訪れる県内の男性は「将来、水道を維持するのが難しくなったときは『井戸を掘ってくれ』と市からは言われている」。水道事業に詳しい関西学院大の佐竹隆幸教授は「水道事業を維持可能なものにするには、同じ市町村内の水道事業のインフラ、技術者、資金を一本か゚し効率化を進める必要がある。住民に『痛みの分かち合い』の必要性を粘り強く説得するしかない」と話す。25の簡易水道を昨春、上水道に統合した松江市は2020年1月、上水道に合わせて料金を統一する。簡易水道の利用者2万6千人のうち、今より料金が上がる人と下がる人はほぼ半々。地域によって4割値上りする場合もあり、3段階で上げる計画だ。
 下水道 始まった公設民営化 飲み水の供給を受ける人口が減れば、自治体が運営する下水道事業の使用料収入をも直撃する。遠州灘に面する浜松市南東部の「西遠浄化センター」。市内の家庭や事業所から出る汚水を1日最大約20万㌧処理できる施設の運営は今年4月、浜松市から民間企業に委ねられた。今後20年間、施設の運営を担うのは世界各地で水道サービスを提供する「水メジャー」と呼ばれる仏ヴェオリア・グループ、日本のオリックスなどが出資する合弁企業だ。
下水道の整備は、高度成長期に普及が進んだ上水道と比べ20年ほど遅れたと言われる。平成になって以降も盛んで、90年代には景気刺激策の公共事業として、今の倍以上に当たる年1兆円超の国費が投入された。浜松市では、90年代以降を中心に総延長3590㌔の下水道管が整備された。老朽化が深刻な問題になるのはこれから。施設も合わせ、今後50年で5200億円の更新費用がかかる。一方、市の人口は08年の82万人をピークに減少し、料金収入は先細りになる。
合弁企業は、インターネットで施設を集中監視するシステムなどを導入し、市が運営していた場合より20年間のコストを14%、計86億円減らすことをめざす。「人口減が進むと、インフラの老朽化による維持費の増加が自治体には大きな課題になる」。浜松市の鈴木康友市長は「民間に任せることで官の負担は軽くなる」と話す。施設の所有権を自治体に残し、運営権を民間に売却する方式はコンセッション(公設民営化)と呼ばれる。空港や道路などのインフラを効率的に維持する主砲として導入されが、下水道に採用されるのは浜松市が全国で初めてだ。浜松市は、上水道にもコンセッションを導入することを検討する。民間に任せれば経営悪化による撤退のリスクも出てくるが、鈴木市長は胸の内を明かす。「民間が破綻するより、このままでは自治体が破綻するリスクの方が大きくなる」
 地域単位で再設計を 各地の上下水道が存続できるかは、自治体が連携する広域化やコンセッションの成杏がかぎを握る。日本政策投資銀行によると、人口減少が進む中で、水道管を60年ごとに更新しながら上水道の黒字を確保しようとすると、30年後に今の料金を平均1.6倍に値上げする必要がある。値上げを抑えようと香川県は今春、県と8市8町の上水道事業を統合した。宮城県は上下水道、工業用水道の施設の運営を民間企業に任せる方針だ。
しかし、飲み水の上水道まで民間企業に任せることには、地域住民から不安の声がある。奈良県は16年、山中間部2地域の上下水道事業にコンセッションを導入しようとしたが、否決された。「命にかかわる水は市でやってほしい」という地元の声が強かったからだ。老いるインフラを次の時代にどう引き継ぐか。人口増加を前提に昭和から平成にかけて各地に次々とつくられた道路や橋、公共施設なども、水道と同じ構図にある。
指定市など111市区町村を対象にした総務省の調査によると、道路と橋、上下水道などの更新費だけでやがて、新設と合わせた年間の投資額を上回る。野村総合研究所の神尾文彦主席研究員は「都市や地域の単位でインフラの再設計をすべきだ。学校などのハコモノと比べて転用しにくい上下水道や道路、橋などはメリハリをつけ、最終的には仕様の変更や縮小も考えなくては」と指摘する。「見の丈」にあうインフラとはどんな姿か。地域で考える時期にきている。

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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