7月3日 池上彰の新聞ななめ読み

朝日新聞2018年6月29日15面:日本代表、W杯で活躍 あふれる「手のひら返し」 この文章を読まれる頃には、サッカー・ワールドカップの対ポーランド戦の日本代表の試合結果が出ています。昨夜の試合を見て睡眠不足の人もいるでしょう。ワールドカップ開会前には、とかく酷評されていた日本代表の活躍ぶりが目立っています。新聞紙面ではどう表現されているでしょうか。セネガルと引き分けた興奮が冷めた頃の今月26日付朝刊の記事で比較してょう。まずは朝日のスポーツ面。<身体能力が髙い相手に、日本は逃げずに真っ向から挑んだ。「デュエル(決闘)」。ハリルホッヂ前監督が口うるさいほどに求めた、局面での厳しさ。この日の日本には、それがあった> おや珍しい。大会直前に解任されたハリルホッヂ氏の指導を取り上げています。前監督の薫陶の成果がやっと出たと評価しているようにも読めます。前監督に対する低い評価が氾濫していただけに、新鮮な視点です。
それにしても、日本がコロンビアに勝った途端、テレビ各局の日本代表への手のひら返しの再評価は、見ていて恥ずかしくなりました。大会前には西野監督のことをあげつらていませんでしたか。勝った途端、西野監督が現役選手時代、いかに女性ファンにもてたかを特するワイドショーもありました。読売の1面コラム「編集手帳」は反省を込めて、こう書きます。<難敵セネガルを相手に乾、本田選手の得点で2度も追いつき、引き分けに持ち込んだ試合は感動を呼んだ。ワールドカップの話題を書くとき、小欄は体よくふるまっていたものの、心の中では出ないでほしい選手を浮かべたりしていた。本田さん、ごめんね> コラムの文章は、こうでなくては。世の中の不条理を嘆き、ときには悪を指弾することがあるコラムは、自分のことを棚に上げていては読者の共感を得られません。
では、日経新聞のコラム「春秋」はどうか。<いじわるな上司、クレームを言い立てる客、隣人を見下すママ友・・。そういう理不尽を撃退した出来事を紹介し、スカッとした度合いを測るテレビ番組がある。それまで人を小バカにしていた相手が、こちらの実力を知ったときの狼狽ぶりなど「スカッと度」最高だ> こう書き出していますから、何のことかわかりますよね。日本代表の気持ちを推し量った文章です。このコラムも、次の文章が続きます。<もっともわれら、忸怩たるものを感じないわけにはいかない。開幕2ヵ月前の監督交代、ベテラン重視の代表選考、親善試合での不振など世の批判は噴出し、「忖度ジャパン」なる揶揄もあった。それが一転、西野監督の「神采配」をたたえ、本田圭佑選手を「大明神」とあがめる。手のひら返しの見本というべきか>
この文章を読んで思い出しました。日本代表もメンバーが発表になったとき、「おどろくほどサプライズなし」というスポーツ紙の見出しもありました。私たちが、いかに勝手でムードに流されやすいことか。「大迫半端ないって」という言葉で「半端ない」という表現を初めて知った人も多いことでしょう。早くも今年の流行語大賞候補です。 <だからその逆の現象も起きうるのがニッポン社会の怖さである。バッシングと賛嘆はどうやら紙一重なのだーなどという理屈はさておいて毀誉褒貶に取り巻かれてきた日本代表はいたって冷静であるに違いない> これも日経のコラムの続きの文章です。ここには慎重な配慮が見えます。手のひら返しは「日本社会の怖さである」と言い切ると、「そういうお前はどうなのだ」という反撃が予想されるので、コラムの筆者は「などという理屈はさておいて」と逃げを打っておくのです。いつなんどきどこで手のひら返しがあるかも知れないニッポン社会。コラムの筆者も「怖さ」と戦っているのです。
◇東京本社発行の最終版を基にしています。

 

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