7月21日てんでんこ 九州と豪雨「1」二つの岩

朝日新聞2018年7月17日3面:「あの岩が見ずに隠れたら危ない」。脳裏をよぎった祖父母の言葉。 7月5日は今年も雨だった。大分県日田市鶴河内の上宮(じょうぐう)町地区、約30世帯が川沿いや山あいに点在して暮らす。自宅にいた自治会長の藤井隆幸(69)は、庭先に出した自作の簡易雨量計を見ていた。避難の目安にしようと、ペットボルトに目盛りを貼り付けた。正午までの約5時間で50㍉が降ったことを雨量は示していた。「雨が降ると落ち着かない」。気象レーダーがとらえた雨雲の動きをパソコンで確認しながら、つぶやいた。
九州は過去に何度も豪雨に苦しめられてきた。台風の通り道にあたり、南から湿った空気が入り込み、梅雨前線が停滞しやすい。江戸時代の1828年に九州北部を襲ったシーボルト台風では1万人超が犠牲になった記録が残る。戦後も、死者・行方不明者約1千人を出した西日本大水害(1953年)、299人が犠牲になった長崎大水害(82年)、鹿児島市一帯が襲われた8.6水害(93年)など、各地で被害が相次いだ。火山灰土が広く分布する九州は土砂災害の危険性も高く、「土砂災害危険個所」は九州7県で約10万カ所、全国のおよそ5分の1が集中する。
2017年7月5日、正午過ぎから降り出した雨は次第に激しさを増した。藤井が自宅の裏を流れる1級河川、鶴河内川を自宅から見ると、濁流がごう音を立てていた。普段2㍍ほどの川幅は岸に積み上げられた石を超え、川沿いの田んぼにまで広がっていた。川のほぼ中央に並んでいた、畳一枚ほどの二つの岩は流れにのまれ、見えなくなっていた。「あの岩が水に隠れたら危ない」。祖父母に子どもの頃から言い聞かされてきた言葉がふと脳裏をよびった。嫌な予感がした。藤井は、集落の住民に避難を呼びかけるため携帯電話を握りしめた。
雨はその後も降りやまず、福岡、大分両県で災害関連死1人を含む40が亡くなる豪雨災害になった。福岡、熊本、大分3県で32人の死者・行方不明者を出した12年7月と同じ九州北部豪雨と名付けられた。(興野優平)
=文中は敬称を略します  🔶西日本を襲った豪雨は200人超の命を奪い、多くの人が安否不明だ。1年前にも、梅雨末期の記録的な雨が九州北部で猛威を振るった。大きな災害を受けた大分県日田市と福岡県朝倉市の集落を中心に、教訓を探る。

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