7月20日 スルガ銀行融資不正の果て

朝日新聞2018年7月16日3面:シェアハウス投資 会社員ら多額借金 自己資金ゼロ不動産投資ができ、長期の賃料収入が約束されるーそんな誘いに乗り、多くの会社員が銀行から1億円前後のお金を借りた。だが事業は破綻し、多額の借金が残った。融資したのは、銀行業会ずば抜けた高収益を誇った地方銀行のスルガ銀行(静岡県沼津市)。融資の家庭では、不動産業者らによる書類改ざんなどの不正が横行し、スルガ銀行の行員の関与も取り沙汰される。前例のない大規模な不祥事はなぜ起きたのか。
入居低迷 返済できず破産も 「多大なる迷惑をおかけし、おわび申し上げる。経営責任は第三者委員会や金融庁検査の結果を待って自ら厳しい対応をとる」6月28日、スルガ銀行の地元・静岡県沼津市で開かれた株主総会。年初から株価が急落し、怒号が飛び交うなか、岡野光喜会長兼CEO(最高経営責任者)は初めて公の場で謝罪した。スルガ銀行の不動産融資の問題が表面化したのは今年1月。シェアハウス「かぼちゃの馬車」を手がける東京の不動産会社スマートデイズの事業が行き詰まったのがきっかけだった。同社は2013年、トイレや浴室が共有のシェアハウスを都内に建て、家賃収入を得られる投資事業を始めた。「賃料保証30年」をうたい、サラリーマンをオーナーに勧誘。資金はスルガ銀行の首都圏の支店が1棟あたり1億円前後を貸しつけた。
入居率は9割だとPRしたが、急ピッチの拡大に入居者が追いつかず、実際は3~4割台で低迷。新たな物件販売で得た利益を、保証した賃料の支払いに充てる「自転車操業」だった。昨秋、スルガ銀行がシェアハウスへの新規融資を止めると、事業はたちまち傾いた。スマートデイズは今年4月に倒産し、類似のシェアハウス業者も昨年以降、相次ぎ行き詰った。
オーナーには、入居者が少ないシェアハウスとスルガ銀行からの多額の借金が残った。毎月数十万~100万超の返済ができず、物件を競売にかけられ、自己破産する人も出てきている。スルガ銀行のシェアハウス関連の融資額は2053億円、借り手は1258人にのぼる。融資が焦げ付く懸念から、スルガ銀行は他の不動産融資を含めて多額の貸し倒れ引当金を計上した。18年3月期の純利益は前年比8割減の69億円に落ち込んだ。
「増収増益」重圧行員ら不正黙認 「あなたには何千万円も貯金があるんでしょ?」借金返済に窮するシェアハウスオーナーがスルガ銀行に相談に出向くと、行員はそう突き放した。行員の手元には、オーナー名義の通帳コピーがあり、数千万円の預金残高が記載されていた。これが資料改ざんが発覚する糸口になった。融資の際、オーナーらは通帳などを不動産業者に預けて手続きを任せた。その間に多くの資料が融資基準に合うように改ざんされた。
スルガ銀行の融資は、物件価格の9割が上限だ。残りの1割以上の自己資金があることは通帳などで示す。だが、オーナーは「自己資金ゼロで投資できる」と勧誘され、千万円単位の貯蓄を持つ人は少ない。そこで業者は物件価格を水増しした売買契約書を作り、実際の物件価格を上回る融資を引き出す。自己資金も潤沢だと装うため、通帳コピーを偽造する不正が横行していた。不正は行員が通帳原本を確認すれば通らない。銀行業界では原版確認が原則。スルガ銀行の行員が原則を守らず、多くの不正を黙認したのはなぜか。スルガ銀行は5月、約3ヵ月間の社内調査の結果、業者による資料改ざんなどの不正が数多くあり、「相当数(の行員)が不正を認識していた可能性がある」と認めた。審査部門が融資に難色を示したのに、営業部門の幹部が恫喝した例もあった。米山明広社長は「増収増益が続いてプレッシャーに変わった」「目先の成績に走り、お客様本位ではなかった」などと説明し、第三者委を立ち上げて真相究明をゆだねる方針を表明した。融資での不正は中古1棟マンションでも横行していた。シェアハウスより融資規模が大きいとみられ、問題はさらに広がる可能性がある。
金融庁も称賛 責任は 「特異なビジネスモデルで継続して高い収益率をあげている。(銀行の規模が)大きければいいというわけではない」金融庁の森信親長官は昨年5月の講演で、スルガ銀行をそう持ち上げた。日本銀行の金融緩和による超低金利で、銀行は従来の貸し出しでは稼ぎにくくなった。人口や企業の減少が追い打ちをかける地銀の経営はとくに苦しい。その地銀に収益改善を迫る金融庁にとって、シェアハウスなどで融資を伸ばすスルガ銀行は「見習うべき優等生」だった。スルガ銀行は貸出金が約3.2兆円と地銀で30位前後ながら、圧倒的な収益力を誇る。地銀の平均貸出金利回りが1.1%台で低迷するのに対し、スルガ銀行は3.6%台と抜群の高さ。昨年3月期までは5期連続で過去最高益だった。
その源泉は、1985年から経営トップを務める創業家出身の岡野会長が推進した個人無向けローンだ。全国の都市圏で信用力を売り込むなど、独自のビジネスモデルを確立。高金利のカードローンや不動産投資向け融資も急拡大させ、今では貸し出しの9割超を個人向けが占める。だが、高収益の柱となった不動産融資は、不正で塗り固めた「砂上の楼閣」だった。過剰な貸し付けで焦げ付くリスクが強まり、今や業績上も最大の障害と化している。
第三者委は8月末までに調査結果をまとめて公表する方針だ。融資の現場で不正が横行する実態を、経営幹部らがどの時点でどれだけ知っていたかが焦点となりそうだ。金融庁も4月から立ち入り検査を続け、業務改善命令や停止命令などの厳しい処分を下すのは必至だ。ただ、同庁もスルガ銀行を一時は称賛し、経営の問題点を見逃した。暴走を許した監督官庁としての責任も、今後問われることになる。 (特別報道部 藤田知也)

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