7月19日 年5万減った中小企業

朝日新聞2018年7月15日4面:「社会の主役」の大廃業時代へ みなさん、ご存知ですか? 日本にある企業の99.7%が中小企業で、働き手の7割が勤めていることを。「社会の主役は中小企業だ」と宣言する文章が閣議決定されていることを。そんな主役たちが姿を消し続けるーそれも「平成」の断面図です。
8年前閣議決定の「憲章」国会決議への機運しぼむ 6月5日、東京・永田町に、中小企業の経営者200人近くが集まった。全都道府県にある「中小企業家同友会」の面々だ。自助努力だけではどうしょうもない経営環境をよくする運動をしている。政治的な色は、ない。みんなの悲願は、民主党政権下の8年前に閣議決定された、ある宣言を国会の決議にすること。国会議員たちの決意を聞こうと集まったのだった。
「中小企業憲章」と名づけられた宣言は、こんな一文で始まる。「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である」こうも記されている。「政府が中核となり、国の総力を挙げて・・どんな問題も中小企業の立場で考えていく」 大企業偏重の社会を変えたい。政策を全省庁で横断的に考えてもらう仕組みにしたい。そのためには、党派を超えて国会全体で意思表示することが必要だ。集まって人たちは、そう思っていた。
けれど・・。与野党の国会議員らはあいさつに立つものの、国会決議への意欲は、ほぼ語られなかった。「今は自民・公明政権さ、民主党時代のことは関係ないね」。福岡から来た中村高明さん(77)にはそうとしか聞こえなかった。中村さんは、福岡は直方市生まれ。ベアリング屋を営む父が亡くなったので故郷に戻り、産業機械の「紀之国屋」として年商25億円にまで成長させた。
あれは1998年、金融危機まっただ中のころのことだった。経営者仲間にこう打ち明けられた。「銀行が、融資している5千万円をいったん返したら1億円貸すと言うとる。会社を大きくできるぞー」その経営者は、銀行に5千万円を返したが約束の融資はされず、会社は倒産した。中村さんは怒った。<銀行のばまし撃ちやないか!>
銀行が貸したカネを強引に回収する、いわゆる「貸しはがし」だ。貸してくれない「貸し渋り」もあって、多くの中小企業が社会から消えていった。中村さんが音頭をとり、全国の同友会メンバーらが署名活動をした。中小企業や地域への優しさで銀行を格付けする、そんな法律をつくりませんか、と。2003年までの3年間で集まった101万人分の署名は、国会に提出された。法律はできなかったが、成果はあった。たとえば、金融機関が中小企業に融資する際にその企業と直接関係ない第三者を保証人にすることは原則禁止、が実現した。けれど・・。世の中は、大企業偏重のまま。大企業のように賃上げしろという政府の大号令に、中小企業は苦しむ。「平成は、生き残りをかけた闘いの時代やった」と中村さん。きょうもどこかで、社会の主役が闘いに敗れ、降板している。
後継者不在127万社 敗戦後、中小企業は「雨後のタケノコ」のように生まれ、右肩上がりの高度成長に乗って増えた。中小企業庁がまとめる「小規模企業白書」によると、個人事業主も含めた中小企業者数は、86年の535万人をピークに減っている。「平成のスタートと企業減の始まりが重なりましたね」と神奈川大の大林弘道・名誉教授(76)。2014年現在で中小企業者数は381万。86年から平均すると年5.4万のペースで減っている。平成の30年間では150万以上減る計算になる。減少の理由は、いくつもある。産業の空洞化で、下請けの町工場が切り捨てられた。90年代初めのバブル崩壊、08年秋のリーマン・ショックもあった。
00年の大店法廃止も大きい。大手流通チェーンが中小小売店への配慮なしで出店できるようになった。中小は店を閉め、シャッター商店街が全国にあふれた。企業が減ると、中小企業に支えられている地方が疲弊し、地方金融機関の経営が苦しくなり、企業への融資が減るという悪循環に陥り、雇用の受け皿もなくなる。「中小企業数の減少は、『国民的経済力』の衰退です」と大林さん。さらに今後、これまで以上の企業激減の危機が迫ってくる。大企業時代がやってくるのだ。介在産業省は昨年、こんな現状をまとめた。この10年間に経営者が70歳を超えて後継者が決まっていない中小企業は、全企業数の3分の1にあたる127万社。もし現状を放置すると廃業が急増。25年ごろまでの10年間に650万人分の雇用と、22兆円分の国内総生産(GDP)が失われる可能性がある。
東京商工リサーチによると、すでに年間約3万件の休廃業が始まっている。大阪商業大の村上義昭教授(59)らが昨年発表した論文も、衝撃的だった。15年末の企業数に比べた40年末の企業数を都道府県別に推計すると、山形、富山、青森は半分以下、岩手や高知など15県で40%以上の減。愛知、大阪は減少幅が20%台、東京や福岡も10%台。村上さんは「このままでは地域がもたなくなりかねません」と警告する。
廃業よりM&A模索を 雇用と事業を守る道 ものづくり街、大阪府東大阪市で商品パッケージをつくる「美販」。2代目社長の尾寅将夫さん(52)は昨年、大阪市で化粧箱などをつくる会社を買収、子会社にした。始まりは2年前の夏、銀行からこう言われたことだった。「廃業が増えているのを何とかしたいのです。M&A(合併・買収)にいい案件があったら紹介していいですか?」一応、銀行に登録はした。8カ月がたち、そのことすらすっかり忘れていたころ、いい会社がありました」その会社の社長は60代で死去。残されたのは90歳を超える母親と数人の社員。廃業しかないかもしれない、という状態だった。
その会社を子会社にした結果・・。その会社が顧客にもっていた関東への進出の足がかりができた。「うれしいのは、みんなが生き生きと働いてくれること。登録をしておいて、ほんまによかった」と尾寅さん。これから10年が廃業問題の正念場。そんな危機感は、与野党問わず政治家も共有している。問題は、自社を売ろうとする企業が少ないことだ。日本M&Aセンターの飯野一宏上席執行役員(49)はこう呼びかける。「後継者がいない経営者のみなさん。廃業を決める前に、関係機関に相談してください。自分の会社を売るのはプライドが許さないかもしれません。でも、その決断は尊い。企業を存続させることで、大切な社員の雇用も守られるのですから」
(編集委員・中島隆<中小企業担当>)

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