7月1日 見張り塔から メディアの今

東京新聞2018年6月26日4面:ジャーナリスト・津田大介さん 公共性を減退させるテレビ局 厳しい経営 商業性優先 リーマン・ショックとインターネットの台頭により、ここ数年青色吐息が続くテレビ業界。経営的な厳しさは、テレビ局が本来持つべき公共性を日に日に減退させている。昨年1月2日に放送されたTOKYO MX の報道バラエティー番組「ニュース女子」はそうした現象の典型だった。「沖縄緊急調査 マスコミが報道しない真実」と銘打たれたこの回は、事実と異なる虚偽の内容で沖縄の基地反対運動を攻撃。放送直後から多くの批判を浴び、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が2017年末に番組内容の「重大な放送倫理違反」を認定し、今年3月には放送人権委員会が番組内で攻撃された人物の人権侵害を認め、同局に再発防止の努力を一層重ねるよう勧告した。同番組は化粧品大手・DHCの小会社の「DHCシアター」が制作し、完パケ(完成)状態の番組をテレビ局から時間枠を買い取って放送する「持ち込み番組」だ。経営難にあえぐ多くの地方局にとって、同社は番組コンテンツと広告料を提供してくれる”貴重”な存在になっている。
MXはBPOの勧告を重く受け止め、3月で同番組の放送を打ち切ったが、4月以降も放送を継続する全国の地方局は17にも及ぶ。いずれも経営体力のない弱小局で、持ち込み番組がもたらす金銭的な利益を優先した結果といえそうだ。同様のケースは報道だけでなく、ドラマでも起きつつあるようだ。5月下旬から6月上旬にかけて、朝日放送などで7月から放送されるマンガ原作のドラマ「幸色のワンルーム」を巡って一騒動があった。ツイッターで公開されたマンガは大反響を呼び、その後書籍化。現在では累計75万部を超すヒット作となっている。誘拐された少女がゆう誘拐犯の青年と恋に落ちるストーリーだが、発表当初から埼玉県朝霞市で2016年3月に発覚した女子生徒誘拐事件を想起させ、「女児誘拐」を肯定するかのように描いた内容には批判が多く寄せられていた。
そのような経緯もあり、今回の実写ドラマ化についてはネット上では激しい議論が行われた。古今東西、犯罪者と被害者の人間模様をテーマにしたフィクションは多数存在する。その延長で考えれば今回のドラマも表現の自由の範囲内に見える。しかし、本件は地上波でのドラマ化。ネットマンガや書籍と比べて桁違いに多くの人の目に触れることは疑いがない。安易なドラマ化は、誘拐事件の被害者や遺族に対する二次加害、あるいは模倣犯を生み出すリスクがある。このことを制作を担当した朝日放送は認識すべきだったはずだが、ドラマの公式SNSが「#背景はお兄さんが撮った盗撮写真」という能天気なハッシュタグを付けて宣伝しているのを見る限り、同局内でそのような議論が行われたようには思えない。
ネット上の議論を受け、放送を予定していたテレビ朝日は中止を決定したが、朝日放送はそのまま放送するという。ネット上で受けたコンテンツを安易にドラマ化することも、放送倫理上問題があるとされた持ち込み番組の放送を継続することも、公共性よりも商業生を優先させた点では同じ。厳しい経営状況に置かれている今だからこそ、テレビ局の放送倫理が問われている。

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