6月17日 スルガ・バブル【上】

朝日新聞2018年6月13日9面:歯車もう止まらない 融資手続き丸のみ■不正を助言 「お客様への融資はできなくなりました」自己資金ゼロで銀行からお金を借り、中古1棟マンションに投資しようとした男性に3月初め、そんな電話がかかってきた。相手はスルガ銀行(静岡県沼津市)の首都圏の支店長。2月末にローン契約を済ませた数日後、融資実行は直前でストップした。「問題が見つかった」としか言われなかったが、男性から話を聞いた不動産業者には心当たりがあった。
業者が融資の審査資料として提出した男性のネットバンキングの口座明細は、偽造して預金残高を増やしたものだった。融資条件を満たさないのに多額の融資を出させるため、男性の自己資金が多いように見せかけた。支店の融資担当者は黙認したが、支店長から待ったがかかったようだ。
1月下旬、スルガ銀行が多くを融資したシェアハウス投資で事業の破綻が明らかになった。2月中旬にはシェアハウス融資で、通帳コピーを改ざんする不正が横行していた実態が朝日新聞の報道で明らかになった。直後からスルガ銀行の審査は厳しくなり、中古1棟マンション融資でも不正は通らなくなった。業者は思惑理りに物件が売れず、売り主側に1千万円単位の違約金を払う羽目になった。同様のケースが続き、経営が傾き始めた。業者は「甘い汁を吸ったツケが回ってきた」と話す。それまでは「家賃保証」をうたって中古1棟マンションを割高な価格で売り、得た利益の一部を家賃保証に充ててきた。しかし物件が売れなくなり、家賃保証した顧客には「業績が厳しい」と釈明して賃料を一方的に減額した。事業は縮小し、都心のオフィスからも近く退去するという。
もとは住居用マンションを扱う平凡な仲介業者だった。4年前、客から「自己資金ゼロで中古1棟マンションが買える」と聞き、ネットで調べると、不動産界で「スルガ・スキーム」という言葉が流布しているのを知った。スルガ銀は本来、物件価格の9割までしか貸さない。そこで価格を水増しし、融資額を多く引き出す。客は自己資金ゼロで物件を買うことができ、業者は多額の利やざを稼げる。「これは面白そうだ」と見よう見まねで営業電話をかけ始めた。
地方の物件と客を見つけてスルガ銀の視点に持ち込むと、行員に「このままでは審査を通らない」と言われた。ただ行員は、客の通帳コピーを指し「残高あと2桁多くすれば」と、偽造を促すような言葉も口にした。パソコンで画面編集して提出すると、笑いながら間違いを指摘され、出し直しを求められた。業者は「どうすれば審査を通るかを手取り足取り銀行に教えてもらった」と振り返る。それからワンルームマンション投資の顧客名簿で客を勧誘した。すでに借金を抱えた客が多く、預金残高の偽造は日常茶飯事になった。物件の評価額を上げるため家賃や入居率も改ざんし、偽の賃貸契約書は従業員同士でサインしてつくった。ずさんな融資手続きでもスルガ銀は丸のみした。
中古1棟マンションは物件価格が億単位で、業者の利益は1棟数百万~1千万円超に上る。融資を引き出せれば稼げる「おいしい商売」に多くの業者が群がった。空き室だらけでも高値がつくなど、中古1棟マンション市場は過熱した。早くから1棟マンションを扱った不動産会社幹部は「4年前までは賃料利回り10%超の物件もあり、得をした客もいる。この2年は物件価格が上がりすぎた。スルガ銀の融資が異常な相場をつくった」と語る。
幹部は昨年スルガ銀の行員に「さすがに銀行は手を引いたほうがいいのでは」と尋ねたことがあった。行員はこう返した。「止めたくてももう歯車が止まらないんですよ」(藤田知也) ◇シェアハウス融資で不正が発覚したスルガ銀行。中古1棟マンション融資でも不正が横行していた。不動産市場を過熱させた「スルガ・バブル」の実態を3回にわたり報告する。

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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