6月15日 新聞を読んで 堀川恵子

東京新聞2018年6月10日5面:空気読まず執拗な取材を 是枝裕和監督がカンヌ国際映画祭で最高賞「パルムドール」を受賞しました。今村昌平監督以来、21年ぶりの快挙です。仏フィガロ紙が配信した記事を、6月2日、本紙が大きく紹介しました。「海外の受賞に賛辞を贈ってきた日本の首相が沈黙したまま」と皮肉る内容です。理由は、監督がこれまで日本政治を告発してきたからと推測されています。
映画のタイトルは「万引き家族」。母親の年金だけが頼りの一家が万引きを繰り返しながら生活し、そこに人の絆が生まれるというストーリー。確かに首相好みではなさそうです。子どもの貧困や児童虐待といった諸問題を浮かび上がらせる家族は「クールジャパン」からかけ離れています。彼らにはアベノミクスの恩恵は届かないでしょうし、何より「万引」は犯罪、捕まれば罪に問われます。
逆に犯罪として立件されず、罪に問われさえしなければ何をやってもいい。そんなあしき風潮を見せつけているのが、今の国会。財務省の文書改ざんを大阪地検が立件しないとなるや、元気を取り戻した人たちがいます。財務相は改ざんの原因が「分かれば苦労せん」とうそぶき、首相は夫人の関与を「贈収賄という文脈では無関係」と胸を張る。一般社会では到底許されぬ行為が国権の最高機関では平然とまかり通る。連日の報道に唖然とさせられる日々です。
政治家たちの言動に欠けているのは、道徳、倫理、モラル。国の指導者に厳しく求められるその資質は、人類最大の課題のひとつ、核問題とも無縁ではありません。核兵器の不使用そして廃絶は、国家指導者の「人道的な判断」に頼るしかないからです。国民が被った痛みを忘れ、核の傘の抑止力を妄信し、米国には核兵器の維持さえ求める今の日本政府には、まっとうな人道上の議論は期待できません。朝鮮半島の非核化というホットな問題に、被爆国である隣の日本が何ひとつ影響力を行使できずにいる現状は、当然の帰結とはいえ残念です。
4月21日の特集「あの人に迫る」が今も胸に残ります。旧満州から引き揚げた男性が、母と妹を自らの手で殺めながら逃避行した壮絶な記憶を語っていました。「戦争をしない国を掲げた憲法九条は、母と妹が残してくれた遺言」とも。その大切な憲法を、道徳もわきまえぬ政治家たちにさわられるとすれば耐えがたいことでしょう。本年度から小学校の教科に新たに道徳が加わるそうです。それを正しく教えられる大人たちがいることを祈るばかりです。私の担当は今日で終わります。これからも本紙ならではの、空気を読まない執拗な取材に期待しています。(ノンフィクション作家) *この批評は最終版を基にしています。

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