6月11日 アキバの傷痕「4」

東京新聞2018年6月6日26面:教育虐待呪縛は暴走へ 算数の九九を間違えると、湯船に頭を沈められる。作文の宿題は、母親が納得するまで書き直しを命じられる。「うちよりハードな親がいる」。会社員だった加藤なほ(35)は、同世代の凶悪犯が母から受けた仕打ちを知って愕然とした。2008年、同姓の加藤智大(35)が秋葉原無差別殺傷事件を起こした直後。なほは、自分の親の「しつけ」が他人と違うと、うすうす感じていた。加藤に似ていると思い、インターネットで生い立ちを調べた。加藤の母は名門・青森高校を卒業したが、大学進学をあきらめた。小学生の頃から加藤につきっきりで勉強を教えたが、加藤は同じ青森高に進んだ後、勉強の意欲を喪失。後半で母は「東北大か北海道大を目指してほしかった」と語り、虐待を「しつけの一環」と正当化した。
加藤の父は子育てに口を挟まなかった。青森市の自宅はカーテンが閉ざされ、庭木は枯れたまま。いまも住む父は、取材に「あの日から時間は止まっています」。母については語ろうとせず「何が原因で事件を起こしたかは分からない」と繰り返した。なおも、経済的理由で大学進学を断念した母に「将来は医者か公務員か教員に」と言われ、塾に嫌々、通った。母が認めない友達との文通がばれると、夜に山へ連れて行かれ、小屋に閉じ込められた。加藤と同様に、なほも進学校へ入った後に「燃え尽きて」勉強をやめた。父の影の薄さも同じだった。
異常な家庭だったと確信し、なほは母に殺意まで抱いた。「私には友達がいたが、加藤には受け止める人がいなかった。事件は親への復讐だったのでは」。実際、加藤は裁判で「百点を取って当たり前。一つでも間違えると叱られた」「母にほめられた記憶はない」と主張した。親が子どもに勉強で過重な負担を強いる。事件から3年後の11年、研究者が初めて「教育虐待」と定義し、実態が知られるようになった。親子間の殺人につながる例もある。
虐待に遭った子どもを保護する「カリヨン子どもセンター」(東京)でも近年、教育虐待の被害者は珍しくない。高校3年だった少女は、母の意向で幼い頃から英語を習い、中学から私立へ進んだ。有名私大への進学を求められ、成績が悪いと「あんなにおカネをかけたのに」。母との関係に悩んで手首を切った。それでも、母が望む大学を受験し失敗。センター事務局長の石井花梨(35)は「親に認められたい気持ちがどこかにあったのかも」。子どもは、親の呪縛から簡単に逃れられない。原宿カウンセリングセンター(東京)所長の信田さよ子(72)は「経済格差の拡大と階層の固定化で、親は子どもが滑り台を滑るように落ちることを心配している。『いい大学』に入れないと、いずれホームレスになるとまで思っている」と分析する。「転落への恐怖は今後、ますます強まる」教育虐待を受けて育つと、親の顔色をうかがって自分で考える習慣が付かず、親に強いられた人生以外は思い描けなくなるという。しかも強い負担がかかると、加藤のように暴走しかねない。「子どものため」が、子どもを追い詰める。(敬称略)

 

 

 

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る