5月9日 「統計不正」いまだ疑問山積

東京新聞2019年5月8日24面:賃金データ「異常な伸び」真相は? 実質賃金 公表渋る厚労省 改元と10連休が終わったが、山積した政治課題が一掃されたわけではない。前半国会を席巻した「統計不正」も、その一つだ。厚生労働省のずさんな処理、日本経済に広がる影響力などを巡って激しい論戦が交わされたが、核心部分の解明はほとんど進んでいない。野党が「アベノミクス偽装」と追及した賃金データや、不正の発端、首相官邸の関与の有無など、あらためて検証した。
第一に分からないままになっているのが、日本の賃金の実態データだ。厚生労働省は、企業を対象に賃金や労働状況を調べる「毎月勤労統計」で2018年1月、従業員499~30人の中規模事業所の調査方法を変えた。具体的には、2.3年に一度すべて対象を入れ替える方法から、毎年一部を入れ替えるようにした。合せて、産業構造や労働者数の変化を統計に反映させる「ベンチマーク」の更新や、04年から抽出調査をしてきた東京都の500人以上の大規模事業所で、全数調査に近づける補正を始めた。これらの影響で、18年は統計上の賃金が上振れした。野党側はこれを国会で「アベノミクス偽装」と追及。実態を把握するために求めてきたが、17、18年とも調査対象となった「共通事業所」で比較した「実質賃金」の参考値の伸び率だ。名目賃金と異なり、実質賃金は物価の変動を加味し、働き手の実質的な購買力を表す。野党側の資産では、18年の年間平均は前年比マイナス0.3%になり、公表値のプラス0.2%を大きく下回ることになる。政府側も計算すれば同様の数字になると認めたが、公表については「(対象企業の)サンプル数も少なく振れ幅も大きい。専門的な検証が必要」(根本匠厚労相)と消極的だった。
同省の有識者検討会も3月、「サンプルの隔たり」などを理由に「一定の限界がある」とする中間的整理案を示した。雇用・賃金福祉統計室の寺坂泰亮氏は「実質賃金を出すとも出さないとも、現段階で結論は出ていない。検討会の議論を見守る」と述べる。賃金の問題に詳しい明石順平弁護士は「公表値の伸び率は、以上にかさ上げされた数字。むしろ実質賃金の参考値の伸び率こそ早急に公表すべきなのに、曖昧にするのは時間稼ぎだ」と批判する。不誠実な政府の対応は、夏の参院選にもかかわるという。「実質賃金がマイナスの状況でも消費税を上げるべきかが問われるはずだが、その議論の前提もウソとなる」
第二に、そもそも問題の発端すら、はっきりしていない。全数調査で行われてきた大規模事業所について、厚労省は04年、東京都分で3分の1に減らす抽出調査に切り替えた。統計の精度を保つために必要とされた補正も長年行われてなかったが、18年1月から補正が始まり、前述のように賃金を上振れさせる要因の一つとなった。同年12月に問題が発覚し、厚労省の特別監察委員会は今年1月に調査報告書を出したが、職員への聴収の大半を身内の職員が行っていたことが判明。再調査の結果、2月に公表された追加報告書では、厚労省の担当者らの2件の「虚偽の申述」を認定した。ただ、幹部が不正を指示したとは認められないという理由で、再び組織的な隠蔽を否定した。(安藤恭子、稲垣太郎)
同日25面:官邸や財務相の関与あったのか? 一般統計点検は? 終了めど立たず 給付できる? 1000万人なお住所不明 結局、なぜ統計の継続性を損なう不正が長年放置されて、途中で補正が始まったのか、報告書からは見えてこない。上西充子・法政大教授(労働問題)は「故意ではなかったという職員の証言に力点が置かれている。短期間のうちに調査が進められ、事実の解明はなされなかった」と指摘する。作成した観察委の委員長が厚労省所管の独立行政法人の理事長である点なども問題視された。「新たな第三者委員会を立ち上げ、時間をかけて不正の原因を調査し直さなければ、統計への信頼は回復できないだろう」
総務省の統計委員会は、毎月勤労統計などの基幹統計のほか、233の一般統計でも点検を求めていたが、どうなったのか。同省の三瀬正英・統計委担当室長補佐は「府省からすべての自己点検結果の報告が来ているが、記入漏れなどがないか精査中」と説明。「進捗状況を話せる段階になく、精査がいつ終わるのかめども立っていない」と言葉を濁す。慶応大の土居丈朗教授(公共経済学)は「ちょっとペースが遅い。法令違反になるものは時間がかかっても、問題がないものは分かった段階で逐次公表していった方がいい。そうしないと、どこにどんな問題があるのか分からなくなってしまう」と指摘する。
減額された雇用保険や労災保険の追加給付はうまくいっているのか。厚労省によると、必要なのは1970万人で、うち1900万人が雇用保険の受給者。現に給付を受けている76万人に追加給付が始まったが、大半の1000万人の住所が分からない状況は現在も変わっていない。過去に給付した人の氏名と性別、生年月日の情報と、住所基本台帳ネットワークなどとの連携で住所を割り出すとしているが、「他省庁と調整中」で全く進んでいない。割り出して10月ごろに対象者に知らせ、11月ごろから支払いを始めたという。全労連の伊藤圭一雇用・労働法制局長は「住所を全部追えるかというと難しい。ハローワークに来る人はもちろん、政府としてできる機会の全てを使い、当該者は教えてほしいと周知すべきだ」と注文。対象者が失業など一番困った時期に給付を減らされた点に触れ、「追加給付すればいいと言えないほど重いことをした。住所の割り出しなどにかかった費用を労使の保険料などかならる『労働保険特別会計』から出すのも筋違いで、国庫から出すべきだ」と力を込めた。政治の関与の有無もうやむやだ。毎月勤労統計の調査方法の変更について15年3月、中江元哉首相秘書官(当時)が「問題意識」を厚労省に伝え、その直後に同省が「毎月勤労統計の改善に関する検討会」を設置。同年10月の経済財政諮問会議で麻生太郎財務相が具体的な改善策や検討を求めた後、同会議で閣僚が次々と統計の見直しを求めた。野党は追及したが、政府側は資料提出などを拒み、平行線のままだった。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「統計不正がアベノミクスの評価を高く見せているとの批判はされたが、国の根幹に関わるデータに不正があると分かっていて放置するなら霞が関の自殺行為。霞が関をコントロールできない政府も終わりだ」と避難する。不正を再発させない責任は内閣にあると指摘。そのうえで野党にも「統計不正問題を国会で採り上げても人気が出ないとぼやいている場合ではない。国民に『自分たちが働いてきた証しをいいかげんにされた」と実感させなければならない」と注文を付ける。

 

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る