5月7日 こちら特報部

東京新聞2018年5月2日22面:搾取の根底に「軽蔑」 本欄を作成した1日はメーデー。今年は「労働と性差別」があらためて問われる機会と重なった。セクハラに伴う財務次官辞任劇では、前次官が「お店の女性と言葉遊びを楽しむようなことはある」と釈明し、「キャバクラならセーフ」説が流れた。だが、それでいいのか。4月に著書「キャバ嬢なめんな。」(現代書館)を出版した労働組合「キャバクラユニオン」のフ布施えり子さんと考えた。(石井紀代美、白名正和)
セクハラ問題で先月24日に辞任した前財務次官の福田淳一氏。福田氏はセクハラ疑惑を伝えた週刊誌の報道後、財務省を通じて疑惑を否定しつつも「時には女性が接客をしているお店に行き、お店の女性と言葉遊びを楽しむようなことはある」と釈明。店の業態は不明だが、メディアなどでは「キャバクラ」を典型例として設定。キャバクラなら、セクハラ発言も問題ないとする考えが妥当かどうかが、新たな議論の的になった。
賃金未払い、パワハラも キャバクラで働く女性従業員(キャバ嬢)らは、この釈明をどう感じたのか。布施さんは「男性客は普段、会社ではできないセクハラをしにキャバクラに来がち。言葉のセクハラもダメとなると、商売自体が成り立たない。従業員は嫌だけど、我慢しているというのが実情だ」語る。布施さんは、中学時代からさまざまなアルバイトをこなし、2008年、知人の紹介で労働組合「フリーター全般労組」に加入。セクハラや賃金未払い問題を抱えたキャバ穣の加入を契機に09年末、分会として「キャバクラユニオン」を結成した。現在まで、店側と重ねた交渉や争議は約200件に上る。
ユニオンの組合員はキャバ穣のほか、ボーイや「水商売」で働く人たち。多くは未払いなどの賃金トラブルだが、店の従業員がキャバ嬢に「一緒にお風呂に入りたい」などとしつこくスマホで性交渉を求めるメッセージを送っていた案件では、経営者から慰謝料を勝ち取った例もあった。布施さん自身、キャバクラの実態を知ろうと、東京・赤坂のキャバクラで約4ヵ月間働いたことがある。「出勤するたびに、従業員に体を触られた。『この世界なら、女性はセクハラを受けて当たり前』という誤った認識がはびこっていた」。キャバクラは「セクハラ・パワハラの総本山」だったと振り返る。
客がキャバ嬢にテキーラを何杯も飲ませて酔いつぶし、抵抗できなくなった状態で体を触る。店員が目の届かない「VIPルーム」と呼ばれる個室で、ドレスの中に手を入れられることは日常茶飯事で、店側はセクハラを防ぐどころか、むしろあおっていた。キャバ嬢は「高給取り」と思われがちだが、それはほんの一握り。搾取もひどく、ヘアメーク代や送迎代が天引きされ、労働時間も店次第。「税金20%」などと、内容が不明なまま引かれる例もあった。「1分でも遅刻したら罰金3千円」という理不尽なルールを強要する店がある。一方で、給料の未払いは数多い。布施さんは「セクハラもパワハラも賃金未払いも、根底には『こいつ、どうせキャバ嬢じゃん』という蔑視がある」と憤る。


23面:推計で120万人 学生なども従事「男性癒しシステム」再考を 福田前次官のセクハラ問題は財務省がセクハラ行為を認定し、「6ヵ月の減給20%」の懲戒処分に相当するとして、退職金の一部を減額した。とはいえ、まだ問題は終わっていない。政府与党からは福田氏を擁護するような発言が相次いだ。問題が発覚した12日、麻生太郎財務相は「訓戒で十分だと思っている」と強調。17日には「状況が分かるように(被害を受けた女性が)出てこないといけない」と二次被害を招きかねない発言をした。下村博文元文部科学相も都内の講演会で「週刊誌に売ること自体がはめられていますよ。ある意味犯罪だと思う」と女性記者を攻撃。23日には撤回、謝罪することになった。安倍政権が掲げる「女性活躍」の実相が浮き彫りにされた。
今回のセクハラ問題は日本での告発運動を加速させているが、キャバ嬢などは現在も議論の枠外に置かれている感がある。布施さんによると、これまでキャバ嬢の未払い賃金の相談は、労働基準監督署に門前払いされることが少なくなかった。店が女性らを雇用する際、労働契約書を作成していないことが多く、労基署に相談しても「契約書がないと無理。これでよく働き始めたね」などと断るケースが多いという。
交渉中、経営者側が依頼した弁護士からは「キャバ嬢は個人事業主だから労働法は適用されない」「経営者の言いなりになるしかない」と耳を疑う発言が飛び出したこともあった。こうした状況下、ユニオンは店側が団体交渉などの話し合いを拒んだ場合、店前での情宣活動や営業中の店内に押し掛けるといった争議活動を展開。未払い問題などを解決してきた。それでも、労働界まで含めて彼女たちの闘いを「きわもの」扱いする空気がある。それに対し、布施さんは「女性が『水商売』で働くケースは決して特殊ではない」と異議を唱える。
布施さんはキャバクラが含まれる風営法の「接客飲食等営業1号営業」の店舗登録から、キャバ嬢の数は全国で約120万人に上ると推計している。さらに学生の短期アルバイトや、スナックなどの他の業態を含まれば、その数は膨らむ。「セクハラが嫌なら、キャバクラで働かなければいい」といった声も聞こえてくる。布施さんはそうした意見を否定しないが、現状では「そうした職場がなくなれば、120万人が働く場所を失ってしまう・・」と複雑な心境を語る。
キャバクラで働いた経験がある作家の雨宮処凛(かりん)氏は「大学などの学費を稼ぐため、キャバ嬢をしている人もいる」と話す。福田前次官の釈明については「キャバクラであっても(セクハラ発言は)ダメ。一人の人間として尊重しておらず、人権感覚がない」としたうえで、「一部の客は下心を持ち、セクハラをしても許されると勘違いしている。キャバクラはいうなれば、『男性の癒やし優遇システム』。このシステムが日本の津々浦々で、こんなにも発達してしまった理由を考えてほしい」と訴える。布施さんは「キャバクラはあくまで飲食の接客をするだけ。だが、それ以上の身体接触などを求める客が多い。それに対して、女性記者のように告発すれば、解雇される。世間もそれを疑問視しない」と指摘、こう危機感を募らせた。
「そうしたキャバクラを放置しているうちに、全国の労働相談でのハラスメントの件数はここ1~2年、賃金未払い問題を抜き、最多になった。セクハラがまん延し、成果主義と搾取が貫かれるキャバクラの倫理が世間に広まっている。いま、労働現場の『キャバクラ化』が進行している」

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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