5月5日 オトナになった女子たちへ 益田ミリ

朝日新聞2019年5月3日14面:くねくねと歩いた日 ランチを食べに外へ出た。駅前の商店まで近道すれば10分もかからないのだが、近道する理由もないので住宅街をくねくね進む。人の家を見るのは楽しい。好きな家とそうでもない家がある。好きな家は自分がそこで暮らしている姿を想像して「楽しそう」と感じる家だと思う。実のなる木がる家はわたしの好みの家だった。昔、回覧板をまわしにいった家のおばあさんに、手作りのマーマレードをいただいたことがる。そこの家には立派な甘夏の木があった。おばあさんはわたしが帰ろうとしたときに「マーマレードはお好き?」と言った。わたしは大好きですと答えた。くれるのかな? ワクワクして次の言葉を待っていたら、おばあさんは言った。「わたしの手作りだから、お嫌いじゃなければいいんだけど・・」
帰り道、わたしは少し寂しかった。手作りなんか嫌がられるわよ、とあの人は以前誰かに言われたのだろうか。もらったマーマレードは、あっという間になくなった。ベランダが広い家も好きだ。あの広いベランダでなにをしようかと考える。干し野菜を作るのもいい(やらないと思うけど)。毎朝、ラジオ体操もできそうだ(絶対にやらないと思うけど)。空想しながらのんびり歩く。商店街に着く。いろんないい匂いがして心が揺らぐ。でもやっぱりアレにしよう。家を出る前から、いや、夕べから食べたかったアレ。 ラーメンである。深夜番組でラーメンを食べている人を見て、明日はわたしも! と思いつつ眠ったのである。
ところで、あのラーメン屋さんは今もあるのだろうか。ずいぶん前にラーメン川柳の仕事をしたあのラーメン屋さん。ラーメンのスープを飲み干すと、鉢の底にわたしが考えた川柳が見えてくるという。広告代理店からの依頼で、3案出すと全部採用されたがどんな川柳だったのかは忘れてしまった。ラーメンを食べ終え、おやつ用の甘いパンを買い、コーヒースタンドでコーヒーを飲んで家へと向かう。いい日だ。完璧だ、と思った。(イラストレーター)

 

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